近くて遠い、すぐそばで

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パソコンの電源を落として、スマホに、財布、カギ。鞄に最低限の荷物を入れる。せっかくのフルメイクも、セットした髪も、意味をなさなくなった。 不機嫌もため息も吐き出せず、優しく、優しく樹里の仕度を手伝う。 「……マスク持った?」 うん!と先ほどとは一転してニコニコしてお気に入りの黄色のマスクに、クリスマスプレゼントにあげたうさ耳のついたブーツに足を入れる。 あたしの車にはチャイルドシートがないから、歩いて出かけるしかない。歩いて約十五分のコンビニへ行くのに倍の時間をかけて向かう。風もない冬晴れ。車の排気ガスの匂いをかぎながら、横断歩道の信号待ちで行き交う車を眺める。白い車。軽自動車のバンタイプ。できれば、社名が入った車。 探しても見つかるはずはない。今日は有給消化で休みな彼の営業車を。 「ハナちゃん。お兄ちゃん、イケメンだったね」 「……そーだねー」 小さな歩幅に合わせて歩く歩道。どこで覚えてきたのかイケメンなんて単語が出てくる。義妹に似て大正解の顔立ちは、将来が楽しみになる。そこにもじもじしたいじらしさも加わって、控えめに見ても、うちの姪は、カワイイ。 コンビニの自動ドアを潜ると、備え付けのアルコール消毒液をポンプする。ルーティーンになった行動も、もうすぐ一年。何も言わなくても手を出す樹里にも、すっかり消毒が染み付いている。 「樹里、何欲しい?」 「えっとー」 少ししかないお菓子コーナーで上から下まで何往復も見ている彼女。隣でしゃがみ込むと、何が嬉しいのか、とろけそうなくらい愛くるしい笑顔を向けられる。遺伝子って、残酷だ。500円と言わず、何でも買い与えたくなる。 「……これ、ママが……すきなの」 見つけた小さな一口サイズのチョコレートは、価格にして約20円。手のひらにのせられているそれを、見つめる目は悲しそうになった。
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