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「ママ、……いつ来るの?」
義妹と離れて二ヶ月は過ぎ、時々スマホのカメラ越しに話すだけになっていた。樹里はチョコレートで思い出してしまうくらいに我慢していた。
細くて柔らかい髪をなでて、もうすぐだよと言うことしかできなかった。
「樹里。今日はあたしがお菓子買ってあげる。だから、ママが帰ってきたらそのお金でチョコレートいーぱい買ってあげよう?」
意味がわからない。そんな顔で見つめられる。
「あたしはねー、コレが好き。樹里は?」
「……こ、れ……」
スナック菓子と手近にあったチョコレートをカゴに入れると、真似するようにグミやキャラクターの印刷がされた袋を入れる。
「ジュースも……」
「いーよ」
好きな物を、好きなだけ買ってあげた。持ってきたエコバッグに詰め込まれた、たくさんのおやつ。行くときは握らなかった手をつないで、自宅までまた歩く。
「ママと何したい?」
「……手、にぎりたい」
「そっかぁ」
続かない会話。見下ろした少女はふてくされることもしない。大人のあたしよりも気丈で、聞き分けのいい子ども。家族でも離れることを選択した人たち。ただの恋人だから、会うことを控えた私たち。
我慢。我慢。ガマン。
我慢って、一体なんだろう。
会いたい人に会えなくなって、パソコンやスマホ越しに顔を見て、もしもに怯えて距離をとった。
感染することも怖いけど、感染させたらどうしよう。そう思うと、会わないことが最善の策だと思った。
「あたしも、あいたいなー」
「……ハナちゃん、も?」
「うん。会って、てーつないで、したいこといーぱっいある……」
「おにーちゃんと?」
「うん。大好きだから」
思ったことが口から溢れてしまう。小さい樹里を相手に。
したいことは山ほどある。手をつないで、抱きしめて、直接声が聞きたい。ドラマであったみたいに、マスク越しでもいいからキスがしたい。
もう、リモートも限界なのかもしれない。
冷たい風に当てられて、人の温もりが恋しくなった。
end.
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