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「ふあ〜ッ…… 寒ッ!」
はぁー、ッたく! 俺は今家出をしている。
姉貴にゲームのクエストの邪魔をされて失敗してその上オートセーブになっちまったのが原因だった。
ムカついてちょっとした口論になり親にうるさいと注意されこんなゲームなんてやってるからと膝でゲーム機を割られた。
あれ小遣い貯めてようやく買ったゲームだってのに! 普通鯖折りみたく膝で叩き割るか? 取りあげるくらいにしとけっての!
なので意思表示のための家出だ。 理由がしょうもないって?
その通り! だがやると決めたからには家出だ!! あんな家1日2日は戻ってやるもんかよ、あー、せいせいしたけど寒いなぁ。 今頃家族は俺を血眼になって捜索中かもしれない。 探すがいいさ、しばらく戻ってやらないぞ、けどやっぱ寒い……
現在冬真っ只中…… 何も冬に家出する事はなかったかもしれないと早くも後悔してるが戻るに戻れねぇ。 どのツラ下げて帰れるってんだ?
ダンボールないかな? 人ひとり包めるくらいの大きくて分厚いの。 夜で助かったぜ、こんなウロウロしててダンボール探してる奴なんて不審者だ。 あれ? でも逆に夜だと不審者っぽいか?
結局ダンボールは見つからなかったがまぁいいや、今日はそこらの公園にでも泊まろう。 確かこの先の公園の遊具の象さんの中に入れるとこあったよな? あそこで風を凌ごう。
裏起毛のアウターの上に更にパーカーを着てきて良かった、それでも脚は寒いけどなんとかなるだろう。
公園の前にある自販機でコーンポタージュを買い目当ての象さんの中を覗くと……
「え?」
「は?」
「ふ、不審者!!」
「どわああッ! お、俺は怪しい者じゃない!」
先客が居たようでそれも女の子だった。
「こんな夜更けにこんな象さんの中を覗いてる人が怪しくない?!」
「い、いや…… 冷静に考えるとこんな夜更けにこんな象さんの中に入っているお前の方が怪しくないか?」
”こんな”ばっか言ってるよ……
「え? あれ?! そう言われれば…… ん??」
ズイッとその子は俺に近付いた。 俺もそれで気付いた。
「やっぱり!!」
「お前は!!」
「由比ヶ浜 玄君(ゆいがはま げん)!」
「七瀬 美子(ななせ みこ)!」
2人でお互いを指差して言った。 七瀬美子、中学生2年の時に俺の学校に転向してきてその美貌で一躍人気者になった女の子だ。 中学3年になった今現在俺と同じクラスで……
まぁ俺も当時は凄い可愛いなって思ってたが俺みたいな凡人が七瀬みたいな人気者とそこまで仲良くなれるわけではないし取り巻きも結構いて入り込めないし遠くから眺めているような存在だった。それがなんでこんな所に?
「なぁーんだ、知ってる人で良かったぁ」
「いやいや、俺とお前クラスでも特に接点ないしそこまで知ってるか?」
「え? でも同じクラスの人だしもしそうじゃなかったらもう少し警戒してるよ。 ところで由比ヶ浜君はなんでこんなとこに?」
「なんでってお前が聞くか? まぁ俺は…… 笑うなよ? 家出だ」
「家出…… 」
七瀬はプルプルと肩を震わせ始めた、笑うなよと言っていたので必死に我慢している感じだった。
「ぷぷッ、ご、ごめん! あははははッ!!」
「ちッ! だから言いたくなかったんだよ」
「違う、違うよ。 あははッ! 由比ヶ浜君もなんだって思って! はぁー、面白い」
「え? てことは七瀬も?」
「お恥ずかしい限りですけどそうなの、何を隠そうと私もこんな所で縮こまっていたのは家出したからなんだ」
ドヤ顔で言うなよ…… てかこいつってそういう奴だったんだな。 クラスでも明るいし可愛いしそりゃ人気者になれるわけだ。
「それで? 由比ヶ浜君の喧嘩の原因は?」
「…………」
「どうしたの?」
「すげぇくだらない理由だからあんまり言いたくないわ」
「え? え? そこまで言うなら逆に気になるよッ!」
「笑うなよ? 実はかくかくしかじか……」
「あはははッ!」
もうこれ完全に振りになってるな……
「わかるわかる! てか奇遇だね、私も弟と喧嘩して家出したんだ」
「へ…… ?」
「だってだって弟ったら反抗期になっちゃったのか「お姉ちゃんおせっかいだから嫌い」なんて言うんだよ!? あんなに可愛い子だったのにショックで〜!」
「そういうもんなのかな? 俺の姉貴とはまた別な気もするけど」
「そうだよー! 私もよく弟に構って欲しくて弟がやってるゲームとかついつい勝手にやっちゃったりするもん!」
「そうすると怒られるだろ?」
「だってぇ〜! 可愛くてついつい…… ああ、そうか。 そう考えてみると由比ヶ浜君もうちの弟と似たようなもんって事なんだよね?」
「え? そうなるか?」
俺は七瀬にそんなもんだと思われるほど可愛くもないと思うが……
「てかこうやってよく話してみるのって初めてだね!」
「そりゃあお前はいつも周りに人がいっぱい居るからな」
「そう! それはッ、痛ッ! 痛ーい!!」
狭い象さんの中でいきなり立ち上がろうとした七瀬は天井に頭をぶつけた。 天然なのかこいつ?
「盛大に頭ぶつけたな、大丈夫か?」
「お星様が見えた…… ねぇ由比ヶ浜君」
「なんだ?」
「いつまで外に立ってるの? 寒いでしょ? 中入りなよ」
入れって言われても狭いし大体俺は姉貴以外の女にそんな狭い中密着した事ないし。 あ、姉貴は女だけど俺の中では女とカウントしてないから実質ないわ。
「いいの?」
「何が? あ、ごめん狭いもんね! 私もっと詰めてるね」
そう言って七瀬は端っこに寄る。 いやまぁ、それもあるんだけど…… それともあれか? こんな事でドギマギしている俺ってキモいか? いやいや、寧ろそんな思考になってる事自体がキモいか? いやいやいや、そもそも俺自身が……
「ねぇ、もしかして寒くて固まっちゃった? ほら!」
「あッ」
ボーッと立っていた俺の服を掴んで七瀬は俺を中へ入れた。
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