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「今日はいろいろあったけど楽しかったわ。 遥も普段からもう少し積極的になればいいのよ?」 「ふ、ふええ……」 他のみんなより少し背の高い速水が宮野の顔を覗き込んで言うと宮野はまたも縮こまる。 「琴はいつも怒ってるみたいな顔してるけどそんな事ないから安心してねぇ、ってそんなの知ってるか」 「私そんなキツい顔してるつもりはないんだけど……」 「そうそうスマイルだよ琴音!」 ニィ〜ッと美子が速水に向かって笑顔を向けると両頬を抓られた。 「いひゃいよぉー」 「あーごめんね、なんとなく」 「もー! なんで抓ったの!?」 「あんたが可愛いからついね」 「そ、それは褒めてるのでしょうか?」 「いやなんで引くのよ…… 何も意地悪しようとしてないでしょうに」 またも亮介にグイッと肩を掴まれる。 今日はコソコソが多いなこいつ。 「女同士だといいな、あんなに自然にタッチ出来て。 俺がやったらドン引きされるぞ?」 「そりゃあ確かにそうだけどお前の息が荒くて若干俺も引いてるんだが」 「あ、あの玄君…… 私も今日は楽しかった、いろいろあったけど。 それと篠田君も」 「そ、それとッ……!!」 宮野にまで取ってつけたように言われて篠田はフリーズした。 「えッ! あッ、あッ」 「気にすんなよ宮野。 こいつはいつも大体こんな感じだ」 「う、うん。 それでね…… 」 「うん…… だとッ!?」 「亮介ェ……」 だんだん可哀想になってきたこいつ…… 「それで? なんだ?」 「玄君にとってす、凄くつまらない事かもしれなくて言い難いんだけど……」 「だけど?」 「じゅ、受験あるよね!? もし良かったら一緒に休み中たまにでいいから図書館かどこかでお勉強出来たらなぁって」 「え? 俺と?」 宮野はコクンと頷くと俺の顔をじっと見て返事を待っている。  宮野と勉強か…… 1人で勉強して終いにはゲームしていたなんてなるよりはよっぽど捗りそうだな。 やる事も特にないし断る理由もないか。 「うーん、その方が良さそうだな」 「ほ、ほんと!?」 なんだか結構喜んでいる。 わざわざ俺を指名するなんてまさか本当に…… 「おー、そっちに対して積極的になったか〜。 まぁ悪い事じゃないわよね。 ん、美子?」 「わ、私も! 私も玄ちゃんのお勉強会に参加させてもらってもいいでしょうか!?」 「え? そんな勉強会だなんて。 宮野はどうだ?」 「私は全然構わない…… よ?」 オズオズと俺と美子を見てそう言うと美子は嬉しそうに宮野の手を持って振り回す。 「ありゃー、これは荒れるわ」 「なんで荒れる前提? 葎花、あんた完全に野次馬気質ね」 そうしてみんなと解散して帰っているとある事に気付いて足が止まった。 俺あいつらの連絡先知らねぇや。 と言ってももう家の近くまで来て気付いた事だしどうしようもないなと思ったがなんとなく、本当になんとなく来た道を戻り公園の辺りまで来た所…… 「はあッはあッ……」 「美子?」 「よ、良かった。 玄ちゃん見つけた」 美子は寒い中走って来たからか幾分顔が赤くなっていた。 「探してたのか? なんで?」 「私玄ちゃんの連絡先知らないなって思って。 せっかくのお友達なのにうっかりしてたよ」 そう言ってポケットから携帯を取り出すので俺と同じような事考えてたんだなと思って俺も携帯を取り出した。 「それ……」 「うん? なぁに?」 「なんか寒そうだなって思って。 その手」 「え!? あ、うん? どうだろ、走ってたから寒いのか暑いのか、でもやっぱり冷静になったら手は冷たいかも。 冷静なだけに……」 携帯を持っていた指先が冷たそうだったので言ってみたけど上手い事言ったでしょう? みたいな顔をされるから少し困る。 「なんかよくわかんないけど寒いって事だよな? ほら」 「こ、これは……?」 美子にポケットで握っていたホッカイロを差し出すと何故かキョドッている。 それと何故か俺の手にあるホッカイロごと俺の手を握った。 俺は普通にこのホッカイロを美子にあげようと思っただけなんだけど予想外の展開だ、なんか美子は大人しくなるし。 「美子…… このカイロあげる」 「そ、そうなんだ。 凄いや」 凄い? こいつ空返事してないか? 「このカイロあげるんだけど?」 「揚げ物にカイロは使え…… ってええ!?」 どんだけ上の空なんだよ? ………… まさかこの光景こいつの弟にも美子はこんな風にしててこれはそういう事なのかと勘違いして一瞬キョドッてたんじゃないよな? いや、ありえるかもしれない。 けれども俺の意図をようやく理解したのか俺の手からカイロを取って美子の手も離れた。 「ご、ごご、ごめんなさい! 私も冬にナオちゃんとお散歩行く時はこうしてカイロ持って手を繋いでたからそういう事なんだと。 いやぁー、玄ちゃんに一本取られましたぁ…… 」 「ま、まぁこっちも誤解させるような事してごめんな」 「ううん…… とりあえず連絡先交換しよっか?」 そして俺のLINEに美子の名前が…… 「いよっし! これで万端だね!」 「なんか走らせちゃって悪かったな、俺も連絡先知らないやって思ってたんだけど気付くのが遅くて」 「ううん、でもその…… まぁいっか! じゃあ家着いたら連絡するねー!」 そう言って美子は走って帰って行った。 ただの連絡用かと思ってたら帰ったら連絡するのか、まぁ女子と友達になるとこんなのは普通なんだろうか?
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