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「ねえ、そんな端っこで風当たらない? 寒くないの? もっとこっち側来たら?」 「あッ、え!?」 あれ? 帰るノリかと思ったらまだ帰る気ないの? なんか七瀬…… いや美子って呼んでいいのかな?  ゴホン、美子と話しているうちになんで家出してたんだっけ? なんて気分になってきたんだけど。 「ん??」 「弟のとこ帰らなくていいのかなって」 「あー、うん。 それもそうだよねぇ、でも私って転校して来てからいろんな人達から話し掛けられてたけどこんなゆっくり1対1で話す事ってあまりなかったなって思ってさ。 だからつい」 「確かに七…… 美子の周りって賑やかだったもんな」 「なんか予想外にわぁーッてみんな来ちゃってさ、それでも誰も来てくれないよりはマシなんだろうけどたまには静かに誰かクラスの人と静かにお話しするのもいいかなって」 「てか前の学校でも今と変わらないだろ?」 「んんー、前の学校では相変わらずドジだなぁとかバカだなぁとか…… わ、悪口反対! あ、でもそんな仲悪いとかじゃなかったよ!」 まぁ小中一緒だった奴はこいつのこんなとこはもうご存知だろうからな。 「玄ちゃんはよく篠田君とよく一緒に居るよね!」 「なんだ、よくわかってんだな?」 「もっちろん! だって他の人よりは短いけどその分みんなと仲良くなりたいなって思って! けど目標は全然いまだに達成出来ず…… でもでも、玄ちゃんとは仲良くなれたよね!?」 「え? あ、ああ。 俺で良ければ? だけど」 「謙遜〜? ふふん、じゃあこちらも私で良ければどうぞよろしく! さてさて、玄ちゃんと友達になった事だし夜の公園も堪能した事だし今日は帰ろうかな!」 「家出はどこ行ったんだか…… けどそうだな、俺も帰ろうかな」 「お姉さんと仲直りしてね!」 「そっちこそ弟と仲直りだろ?」 「うん! じゃあまた明日学校でね!」 美子と別れ公園を後にする。 変わった奴だったなぁ。 学校では遠くから見てるだけで喋りもしない子とあんなに話すとなんか新鮮だな。 家に帰り玄関を開けると姉貴が立っていた。 げ…… 怒ってらっしゃる? 「玄!! どこほっつき歩いてたのよ!? ほら!」 「え?」 姉貴が俺の前に出したのは親父がぶち割ったはずのゲーム機が…… そしてひょこっとリビングから顔を出した。 「すまん玄、あの後お姉ちゃんに壊す事ないでしょって怒られて新しいの買ってきた。 父さん反省してる、母さんにもこっぴどく叱られた」 そう言うとサッと顔を引っ込めた。 なんつーかお気の毒に…… いや、ぶち割ったのは親父だけど。 「お姉ちゃんもごめんなさいって事でついでにもう一台買って来たから一緒にやろ!」 「はあー、はいはい」 「とりあえずお風呂入って来なよ? 寒かったでしょー、お姉ちゃんが久し振りに背中でも流してあげよっか?」 「なんだよ気持ち悪りぃなぁ、んなことしてもらいたくないっつーの。 ……俺こそ悪かったな姉貴」 「ん? にししッ」 姉貴はわしゃわしゃと俺の頭を撫でた、なんかムカつく…… 短い家出だったなぁ、そもそも家出というよりかは夜の散歩くらいに収まってしまった。 あいつは無事に帰ったんだろうか? そうして次の日の学校…… 「よッ! 玄」 「あー、亮介」 「相変わらず覇気がねぇな」 「学校に来てるのに元気あるはずないだろ? 早く帰りてーわ」 こいつは篠田 亮介(しのだ りょうすけ)、流れで大体お察ししてると思うが俺の友達だ。 「聞いたぞ昨日、お前の姉ちゃんから連絡来たわ。 そっちに行ってないかって! 喧嘩でもしたのか?」 聞かれると思った、昨日家出した時携帯の充電あんまなくていつの間にか寒さでバッテリー切れてたからな。 帰ってから気付いてそのまま寝ちまったから放置してしまった。 「というわけで……」 「くだらねぇ! お前そんな事で家出してたのかよ? 笑える」 「言うと思った、まぁ確かにくだらねぇよな」 「おはよー美子」 「おはよう!」 亮介と話していると美子が学校に来た、俺達の目線もチラッと美子の方に移った。 「あっちも相変わらず人気者だなぁ、転校初日からブレイクしてたし俺らみたいなのとは接点ねぇな」 「ん? あ、ああ」 「なんだよ今の間? 意味ありげじゃねぇか?」 「いや、なんも……」 昨日の事を思い出してしまった。 そんな時こちらに近付いて来る人影が…… 「玄ちゃんおはよ!」 「え? 玄…… ちゃん!? つかなんで?」 「お…… お、お!?」 あの時だけで今日声を掛けられるなんて微塵も思わなかった俺はどもってしまった。 周りからも「仲良かったっけ?」とか「玄ちゃん?」とか声が聞こえるが美子はお構いなしだ。 「んん〜?」 「な、何?」 俺に挨拶をして美子はなんだか不機嫌な顔になった。 やはり急に俺に親しげに話し掛けて周りにヒソヒソされるからか? 「玄ちゃん! おはようって言ってるのにスルーはないでしょ?」 「あ、そっち? …… おはよう」 「ん! 篠田君もおはよう」 「お、おう…… おはよう」 そして満面の笑みでいつもの友達の方へと戻って行った。 「お前…… 何があったの?」 「いろいろあった」 「いや、わかんねぇよ!」 理由を話すと思った通り亮介から「信じられん、けしからん!」となぜか責められた。
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