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「そぉいやお前高校はやっぱ姉ちゃんと同じとこか?」
「やっぱってなんだよ? でも近いからそこ行くだろうな」
「だからやっぱじゃねぇか。 俺も近いしそこだな、良かったな! 友達が別な高校に行かないでくれて」
「自分で言うかそれ? ん?」
斜め後ろの席から視線を感じ振り向くとサッと顔を伏せられる。 俺の席の斜め後ろは……
宮野 遥(みやの はるか)、こいつは昔から大人しい奴でいつもオドオドしている奴。
気のせい…… だよな?
「どした?」
「いやなんでもなかったわ。 それよりお前って受験勉強……」
午後の授業も終わりこの時期の3年の俺らには部活はないのでさっさと帰れる、まぁ部活は名前を置いてた程度だからさして変わらないと言えば変わらない。
「あ! ちょっと待って玄ちゃん!」
「え? 美子どこ行くの?」
「ごめーん! ちょっと用事あるから琴音と葎花は帰ってて」
「用事って由比ヶ浜に? あんたら急に仲良くなったのね」
「それはもう! ええと…… それはもうクラスメイトですから」
「それはもうの後の取ってつけた感何〜?」
な、なんだ!? なんか俺ってあいつに用事なんてあったか? いつも仲良くしてる速水と木村に手を振って美子はこちらに向かって来た。
「俺はお邪魔のようだから消えるぜ。 七瀬もいいけどさ、お前からしたら速水の方が良かったか?」
「はぁ? お前何言って……」
「え? あれ? 篠田君もなんなら一緒にと思ったのに」
最後に余計な事をボソッと言って亮介は去って行った。 余計な気を回さないで出来れば一緒に居て欲しかったぞコルァ!
「じゃあ行こっか?」
「え?」
「そ、そんな怪しまなくても取って食ったり煮たり焼いたりはしないよぉ」
怪しませたくないなら取って食ったり煮たり焼いたりなんて言葉使うなよな?
学校を出て美子と一緒に並んで歩く。 パッとしなかった俺の学校生活にこんな事が起ころうとは誰が想像しただろうか?
「それで? 用事ってなんだ?」
「もう! 忘れたの? 昨日ジュース2回も買ってくれたんだから返すって言ったじゃん?」
「え? ああ、その事か。 別に気にしなくていいのにな」
「言うでしょ? 連帯保証人にはなるなって」
「その話が今の話と何が関係あるんだ?」
「へ? そう言われればそうだね。 私が言いたかったのは借りたお金と恩は返しますって事」
「だったら最初にそう言ってくれよな、何事かと思ったじゃないか」
「えッへッへぇ〜、サプライズ的なアレだよ」
歩いていると自販機があったので美子はそこで止まった。 へぇー、当たりも出るんだなこの自販機。
「お客様何をお飲みになりますか?」
「ん…… んん、じゃあ温かいお茶で」
「かしこまりました」
ニコッと笑って自販機にお金を入れ美子はお茶のボタンを押そうとした時……
「あれ? でもこれって買い食いじゃね?」
「え!? あ……」
俺が咄嗟に思った事を言うと手元が狂い冷たいスポーツ飲料が出て来てしまった。 そしてルーレットがスタートした、そのルーレットをフリーズした顔で見つめる美子。 当然調子良く当たるはずもなく……
「ひッ! ううッ、うぅ……」
「…………」
チーンという音が聴こえた気がした。 い、今のは俺が悪かったな。 美子の奴自販機から冷たいスポーツ飲料を取り出して沈んだ顔してるし謝らないと……
「あ…… のさ、ごめんな?」
「いやぁー、なんて事でしょう! 私これ飲みたくてついつい押しちゃった。 あ! 今度こそ玄ちゃんどうぞ!」
「お、おう……?」
いや、演技バレバレだろ。 だがそうは言われてはつっこめず温かいミルクティーを押した。
すると今度は当たりが出てもう一本ミルクティーが出て来た。
「わッ、わッ!! 凄い!」
そんな様子をさっきの曇り顔から一転、キラキラした目で見ていた。
「初めて自販機で当たり出たわ」
「私も初めて見た」
見れば冷たいジュースを持っていた美子の手がプルプルと震えていた。 あげた方がいいよな? 美子は女の子だし。
「ほら」
「え? 何?」
いやいや! ちょっと引いた顔してないか!?
「あ、え!? も、もしかしてくれるの?」
「そのつもりだったんだけど……」
「あッ! ありがとッ!! って貰っちゃったらお返しの意味が…… で、でも嬉しいから貰っちゃっていいかな?」
「あ、ああ……」
ああ、それでその顔か。 なんか美子って独特なとこあるからビックリするな。
「あはは、ミイラ取りがミイラになったみたい」
「それそこで使うか?」
「えへへ、ありがとう玄ちゃん」
俺と美子はそのまま一緒に歩いて帰り分かれ道になった。
「じゃあね玄ちゃん」
「ああ、じゃあな」
「あ!! 玄ちゃん!」
「は?」
美子に腕を引っ張られた。 それが結構な強さで美子の方に倒れそうになってしまうのを美子は俺の背中をガッチリと掴んで支えた。 その瞬間トラックが俺の後ろを走って行った。
甘い匂いとなんか柔らかい。 姉貴以外の女の感触……
「あ、危な…… 悪い美子」
「ど、どういたしまして」
「「…………」」
なんだかお互いに気不味くなってパッと離れた。
「わ、私なんか男の子みたいな助け方だったでしょ!?」
「え!? そ、そうだな、なんかどこぞのワンシーンみたいだった」
「それってどんな?」
「へ?」
「あ…… いや、なんでもない! とにかく助かった、ありがとな」
「あ、あははッ、また明日ね!」
美子はそのまま走って行く。
だ、抱き付いてしまった。 あの美子と俺が…… いや、事故みたいなもんだからそんな風に捉えるのは違うような気もするけどとりあえずその後しばらく緊張していた。
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