口溶けの恋心

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しかし、昨年の春、奈美が主任の役職に就いたあたりから関係に歪が生じてきた。 山野にとっては、自分より先に奈美が主任になったことが面白くなかった。 奈美は、当然一緒に喜んでくれるものだと思っていた。 世の中に男の沽券を声高らかに唱える人がいたり、共働きの夫婦の収入の男女差はよく聞く話である。 でも自分たちは、そういう考えを超えて結びついていると思っていた。 奈美は当時の自分を、なんと夢見がちだったことかと一掃する。 山野は、その年の新入社員の遠山瑠奈(とおやまるな)と浮気のあと結婚した。 遠山は、奈美が教育係りを任された新人であった。突然の婚約破棄、直属の後輩との結婚、さらに山野は地方に栄転し奈美の目の前からいなくなった。 三年間築き上げていたものが、あっと言う間に跡形も無く消えた。色んな感情が整理できないまま、奈美はひたすら仕事に打ち込んだ。
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