口溶けの恋心

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会社近くの居酒屋街の中に和食の『絶佳(ぜっか)』はあった。 階段を登ると入り口がある。石の階段に置かれた灯篭や古木の手すりが素敵であった。重厚な木の扉を開けると、生き生きとした花が目に飛び込んできた。 「いらっしゃいませ」 着物姿の女将が出迎えてくれた。 「花が素晴らしいですね」 奈美は思わず感嘆の気持ちを伝えた。 「まあ、ありがとうございます。毎日私が活けておりますの。お待ち合わせですか?」 「あ、はい。森田で予約しているのですが」 「いらっしゃってます。こちらへ」 石畳の廊下。左右に個室が並ぶうちの一室に案内された。 木の扉と漆喰の壁、部屋の中には一枚作りの大木のテーブル。六人はゆったり座れそうな個室の広さだ。 ほんのり香る檜は心が落ち着く。 「お疲れ様です。高木さん」 森田が、立ち上がり挨拶した。
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