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いつからだろう。自分の感情を素直に出せなくなったのは……。
高木奈美は、社内の休憩スペースでコーヒーを飲みながらぼんやり窓の外を見ていた。
定時で上がり足早に帰っていく社員。恋人だろうか、待ち合わせて嬉しそうに去っていく。
仕事を優先することを、言い訳に使うようになり、恋愛はこりごりと言うことで、チンケなプライドを保っている。
恋愛はおろか、この一年半異性との接触が一切ないことに気づき、自分でも枯れていると思う。まだ二十七歳、もう二十七歳……。
奈美には以前、婚約までしていた相手がいた。営業部の山野聡。デザイン部の奈美とは同期入社で、仕事が絡むこともあり、二人でよく飲みに行った。
気が合い、すぐに付き合った。友達であり、同期であり、恋人でもある。同じ年なので、対等に話せて二人三脚で共に進んでいく将来を、奈美は考えるようになった。
山野もそうであったはずだ。少なくとも三年間は、二人にとって良好な付き合いであった。
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