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明治四二年、夏。
蝉の鳴き声と船の汽笛が混ざり合って聞こえてくるここは、神戸にある一軒の喫茶店。その名を『喫茶 ねこまた』と言う。
明るい店内は今、窓という窓を大きく開けて、潮風になびいている白い透かし模様の窓掛けが涼しげである。
現在この『喫茶 ねこまた』の店内には、二人の客と一人の女給がおり、店主は現在席を外している様子だ。
「ねぇ、クリスティーンさん。一つ質問よろしいかしら?」
机の上を台拭きで拭きながら声をかけてきた女給はまだ、十代の少女のようだ。袴姿に真っ赤な大きめの髪飾りを頭に付けたその姿は、いかにも今風の若者と言ったハイカラなものだ。
そんな彼女からクリスティーンさんと声をかけられたのは、ブロンドの髪を後ろで一つに縛り、つば広の帽子に深緑のドレス姿の、いかにも異国の人然としている人物だった。
クリスティーンは色素の薄い瞳を少女へと向けると、
「何でしょうか? おユキちゃん」
流暢な日本語で返してくる。『おユキちゃん』と呼ばれた女給は、動かしていた手を止めるとクリスティーンに質問をした。
「クリスティーンさんは、いつからこの喫茶店にいらっしゃっていますの?」
「ちょうど一年前、日本に来たばかりの頃デスネ」
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