拝啓、サンタクロース殿

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1 「タクマ、今日夜勤っつってたよね。なんでイオンにいんの?」 「えっとぉ、ミカか。びっくりした!」  彼氏のタクマは、あたしの問い詰めるような口調に、間の抜けた返事をした。 「びっくりしてんの、こっちだけど。てかそのおばさん誰?」 「え? いきなり失礼だろ、この人は職場の―」 「どうもー、タクマの彼女の、三橋です」 タクマの彼女を名乗るその女は長い髪を耳にかけながら、鼻にかかった甘ったるい声で早速あたしをけん制してきた。クリスマスイブのイオンの電器店は、いきなり修羅場と化した。 「彼女って、あたしがタクマの彼女だけど。なんなの? 」 「ミカ、ちょっと落ち着こ?」 「え? タクマ君、このミカちゃんって……」  この女の落ち着いた態度と、心から疑問に思っている声のトーンが、余計にあたしをいらだたせた。 「何? 馴れ馴れしいんだけど、おばさん!」 「だから、お前の態度さっきから何なの?」 「何よ、タクマ浮気しといて私に注意できる立場じゃないっつーの!!」 あたしの声はどんどん大きくなり、周囲の人間がこちらをチラチラ見始めたころ、ヤツは現れた。 「はいはい、店で騒ぐなら出てってくれるかな?」 電器店の制服のはっぴに、サンタクロースの三角帽子を被ったそのおっさんは、やる気のなさそうな声でこの三角関係に飛び込んできた。 「なんか知らんけど、もうすぐ閉店やし、ここからどいてくれる?」 「何それ? 客に対する態度なの?」 急に水を差されて、ますますあたしは苛立った。 「お客様?それは失礼しました。何をお買い求めでしょうか?」 「……」 そのおっさんの、のうのうとした態度に、あたしの怒りの熱は急速に冷やされ、ここはイオンで人目があり、誰か知り合いに見られたらヤバいという事に気が付いた。 「ミカ! 迷惑になるし出るぞ!」 「両手に花やな、青年。うらやましい限りやわ」  タクマはおっさんの嫌味を気にする余裕がないようで、あたしを置いて店を出ようとしていた。 「タクマ、今日はもう帰る。あとで連絡するから!」  あたしは、捨て台詞のように言って、これ以上ないくらいの早歩きで電器店を去った。 そしておっさんの、「ありがとうございました~」が背後から念仏のように聞こえてきた。妙なおっさんだった。いや、口調がおっさんなだけで、今どきの塩顔メガネのアラサーに見えた。 人生最悪のクリスマスイブ、もうプレゼントをサンタクロースにお願いしない年齢になってから、ふいうちで届いたプレゼントは、高校時代からずっと付き合っている彼氏の浮気だった。
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