拝啓、サンタクロース殿

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10 そしてまた三か月後にいきなりラインの返信が来た。「橋本雄二の母です。雄二のお友達ですか? 一度会ってお話できますでしょうか」と。ほんとうに母なのか疑わしかったが、あたしは「サンちゃんの母」と名乗る人に会うことにした。一応用心して、人目がある以前働いていたファミレスを指定した。 その人は本当に来た。見た感じ60代くらいの女の人で、あたしの親より間違いなく年上の感じで、サンちゃんの母というのは本当のようだった。挨拶した時の言葉のイントネーションは、サンちゃんと違って関西弁ではなかった。 そこであたしは、サンちゃんが亡くなった事を告げられた。 サンちゃんのお母さんは、お葬式、四十九日を終えてから、あらためて遺品整理をした際に、息子のスマホを確認してあたしの存在を知ったそうだ。 病気で余命を告げられ会社を辞めた息子が、時折病院以外にうれしそうに出かけていた事から、どんな様子だったか聞かれたので、あたしはおよそこの三か月の顛末を正直に話した。サンちゃんのお母さんは目に涙を溜めて、 「最期にあの子と一緒に楽しい時間を過ごしてくれてありがとう」 とお礼を言った。あたしたちのシューカツ同盟が三か月目になったときにはもう入院していたこと、幼少期から高校までは大阪で暮らしていたから関西弁だったことを、お母さんから聞いて初めて知った。 「サンちゃん……雄二さんは、わかっていたんですか?あの、その……もうすぐ死ぬってこと……」 「それはもちろん。でもあの子は私の前では泣き言も言わなかったし、飄々としてた……ように見えた。でも、会社を辞めて少ししてからかな。パチンコによく行くようになって……なんでこんな時にギャンブルなんかって私も心配だったのだけど、あの子なりの現実逃避だったのだと思う。自分と同い年の人達は結婚して、子どもができて、マイホームを持ってって時にこんな風になって……病気がわかった時に、付き合っていた人や友だちとも付き合いを止めたみたいなの。たまらなかったのでしょうね」 「あたし何も知らなくて……無神経なこといっぱい言っちゃった……んです」  あたしは知らなかったとはいえ、サンちゃんに言った軽口を振り返ってみると、「ご愁傷様」だの「死ねばいいのに」などという、シャレにならない自分の言葉の数々に青ざめた。 サンちゃんのお母さんは、静かに首を振った。 あたしはいつもサンちゃんに自分の話を聞いてもらうばかりだったし、サンちゃんもあまり自分の話をしたがらなかった。あたしの話にツッコみを入れる時はイキイキしていたが、あたしが「サンちゃん結婚は?婚活しないの?」とか聞いてみても、「まあ俺はええんよ。」と曖昧にぼかしていた。あたしはサンちゃんのお母さんに、お礼を言われるような事は何もしてないですよと何度も言ったが、 「あなたの話を聞いてわかったのだけど、あなたとの「シューカツ同盟?」が始まったくらいから、パチンコやタバコを止めて、落ち着いた様子だったのよ。あなたが頑張っている姿が、あの子の励みだったのよ、多分だけど」 とお母さんに言われると、サンちゃんにもう二度と会えないのだと実感した。そしてこれからは、もっと綺麗な言葉遣いで人と話そうと思った。
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