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サンちゃんが亡くなったことは誰にも言えなかった。そもそもサンちゃんは彼氏ではないし、友だちというにも、年も離れていて共通点がなかった。周囲の人たちにあたしたちの関係を説明しにくかったので、家族や友だちにもサンちゃんの存在を言っていなかった。そのせいか、サンちゃんがいなくても日々は何も変わらないように思えた。コールセンターで電話を取り、休みは友だちと出かけたり、婚活をしたりとあたしの日常に変化は何もなかった。
ある晴れた夏の日、エリが婚活パーティーに誘ってくれ、その日はエリだけがカップリングし、あたしは一人帰る気にもならず、前にサンちゃんと二人で行ったファーストフード店でぼんやりしていると急にこみあげてきた。涙が止まらなくなって口に入り、飲んでいるコーラと混ざって、涙のしょっぱさとコーラ独特の甘さが同時に口の中に広がり、複雑な味がした。外は分厚い雨雲が急に立ち込めて、晴れた空が奪われ、店に夕立の音が大きく響いていた。
なぜ何も気づかなかったのかと、重たい後悔に押しつぶされそうな思いがした。今にして思えば、サンちゃんの顔色がいつも青白かったこと、痩せてきていたこと、一度何かを言いかけて止めたことなど、色々思い当たる節はあったはずだった。でもあたしは、目の前の自分の事しか見えていなかった。三か月一緒にいたはずなのに。知った所で何ができるわけじゃない事も、サンちゃんは恐らく同情の目で見られたくなくて何も言わなかった事も、想像はついたけど、最期まで一緒にいたかった。いつも悪い事は突然来る。コールセンターの過剰なまでの分厚いマニュアルみたいに、たとえクレームでも、あらかじめ想定させてくれればもうちょっとマシだろうと思う。コーラを半分ほど飲んだ所で店を出ると雨に濡れ、駐車場の車にたどり着くころにはずぶ濡れになり、流した涙は雨と一緒になってわからなくなった。
今はまだ夏だけど、あと数か月もしたらクリスマスシーズンになる。サンタクロースを見るたびに、あたしはサンちゃんを思い出すだろう。あれはホントに最低なクリスマスイブだった。車の中で涙と雨で濡れた顔や体を吹きながら、この先迎えるクリスマスを憂鬱に思った。
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