6人が本棚に入れています
本棚に追加
8
「サンちゃん、引っ越し先決まった?引っ越し前に、お互いの就職祝いにご飯食べに行こうよ」そのラインはいつまでたっても未読のままだった。あたしたちのシューカツ同盟は、面接や履歴書を送ることを繰り返して、めでたく終わりを迎えることになったのだ。
何事も終わりはあっけないものだけど、シューカツの渦中にいるときは大変だった。実際の所、履歴書を送っても面接にすらたどり着けない事も多く、就活の面接も慣れないうちはしどろもどろになりがちだった。そんななかでサンちゃんに話を聞いてもらえたり、アドバイスを聞ける事はありがたかった。
そして何とかあたしは新設のコールセンターの契約社員、サンちゃんはスーパーの社員に決まった。そしてサンちゃんの配属先の店は隣の県なので、引っ越すことになったのだ。
最後に話したのは電話で、
「あのコールセンター受かったよ!サンちゃんのおかげだよ、ほんとありがと!」
「おう!よかったな。俺もあのスーパー受かってん。そんで引っ越しする事になったわ」
というやり取りだった。その後一週間ほどしてから、あのラインを送ったのだ。じつはシューカツ同盟が三か月目に入ってからは、お互いの面接や新生活準備などで忙しく、直接サンちゃんに会うことがなくなり、電話やラインでのやりとりが多くなっていた。あたしもシューカツの次は新しい職場の研修や人間関係に必死で、サンちゃんのことが気にはなりつつも、時折ラインを残すしかできなかった。それにもしかしたら新しい環境でもうあたしの存在はサンちゃんに必要ではないのかもしれないという不安もあった。タクマがそうだったように、環境が変われば人も変わる。そして良くも悪くも人は環境に慣れる。ということは前の環境は自然と過去になっていくということだ。タクマの時のようにしつこく連絡して、
「もう俺ら会わんでええやろ」
と決定的な別れを宣告されることは怖かった。その怖さを自覚したときに、サンちゃんは彼氏ではないが、あたしにとっていつのまにか大切な人になってしまっていたことに気が付いた。それに気が付いて堪らない気持ちになり、覚悟を決めて会いに行こうと決心した。あたしはいつもそうだ。はっきりしない事が苦手で、結末があんまりよくないとわかっていても行動してしまう。サンちゃんの配属先は確か隣の県の店舗で、大体の位置もわかっている。それなら今度の休みに行けると確信した。土日なら大体出勤しているはずだ。サンちゃんならなんだかんだで、
「おう!よう来たな」
と言ってくれるじゃないかという淡い期待もしていた。その期待があたしに車のアクセルを踏ませたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!