6人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「タクマ、今日夜勤っつってたよね。なんでイオンにいんの?」
「えっとぉ、ミカか。びっくりした!」
彼氏のタクマは、あたしの問い詰めるような口調に、間の抜けた返事をした。
「びっくりしてんの、こっちだけど。てかそのおばさん誰?」
「え? いきなり失礼だろ、この人は職場の―」
「どうもー、タクマの彼女の、三橋です」
タクマの彼女を名乗るその女は長い髪を耳にかけながら、鼻にかかった甘ったるい声で早速あたしをけん制してきた。クリスマスイブのイオンの電器店は、いきなり修羅場と化した。
「彼女って、あたしがタクマの彼女だけど。なんなの? 」
「ミカ、ちょっと落ち着こ?」
「え? タクマ君、このミカちゃんって……」
この女の落ち着いた態度と、心から疑問に思っている声のトーンが、余計にあたしをいらだたせた。
「何? 馴れ馴れしいんだけど、おばさん!」
「だから、お前の態度さっきから何なの?」
「何よ、タクマ浮気しといて私に注意できる立場じゃないっつーの!!」
あたしの声はどんどん大きくなり、周囲の人間がこちらをチラチラ見始めたころ、ヤツは現れた。
「はいはい、店で騒ぐなら出てってくれるかな?」
電器店の制服のはっぴに、サンタクロースの三角帽子を被ったそのおっさんは、やる気のなさそうな声でこの三角関係に飛び込んできた。
「なんか知らんけど、もうすぐ閉店やし、ここからどいてくれる?」
「何それ? 客に対する態度なの?」
急に水を差されて、ますますあたしは苛立った。
「お客様?それは失礼しました。何をお買い求めでしょうか?」
「……」
そのおっさんの、のうのうとした態度に、あたしの怒りの熱は急速に冷やされ、ここはイオンで人目があり、誰か知り合いに見られたらヤバいという事に気が付いた。
「ミカ! 迷惑になるし出るぞ!」
「両手に花やな、青年。うらやましい限りやわ」
タクマはおっさんの嫌味を気にする余裕がないようで、あたしを置いて店を出ようとしていた。
「タクマ、今日はもう帰る。あとで連絡するから!」
あたしは、捨て台詞のように言って、これ以上ないくらいの早歩きで電器店を去った。
そしておっさんの、「ありがとうございました~」が背後から念仏のように聞こえてきた。妙なおっさんだった。いや、口調がおっさんなだけで、今どきの塩顔メガネのアラサーに見えた。
人生最悪のクリスマスイブ、もうプレゼントをサンタクロースにお願いしない年齢になってから、ふいうちで届いたプレゼントは、高校時代からずっと付き合っている彼氏の浮気だった。
最初のコメントを投稿しよう!