夢とサンタクロースの旅立ち

Lesson２『サンタクロースの心得』

「ではＤＶＤを見てください」
　黒のサンタ教官は壇上から下り、下手側に在るテレビ台に向かう。プラスチック製の縦長の箱からディスクを取り出し、テレビ台の下部にあるＤＶＤプレイヤーの取り出し口に挿入する。ＤＶＤは自動的にプレイヤーに格納され、テレビが映像を再生させる。

　大きな轌(そり)をトナカイ達に引かせて雪道を駆る、お馴染みの赤い服を着、白い髭を蓄えたサンタ。
　夜空を轌で飛行し、地上の子供に手を振るサンタ。
　玩具屋やデパートで、子供からプレゼントの相談を受けるサンタ。
　真っ暗な子供部屋で眠る子供の横に置かれた大きな靴下の中に、プレゼントをそっと入れるサンタ。

　さまざまなシチュエーションのサンタが、ワイプに別れて表示されている。
　電話の番号案内のように聴き取り易い、女性のナレーションが加わる。

「現代は誰もがサンタになれる時代です。皆さんも、サンタになって早く子供と触れ合いたいでしょう。しかし、サンタの責任は非常に重いものです。そのことを心に刻み、これから教習を受けて、夢と責任ある立派なサンタになれるよう自主的に学習して下さい。それでは、レッツ、メリー・クリスマス！」

　雪が降り、星々がイルミネーションのように光輝く夜空を背景に、ゴシック体の白文字でテロップが打たれる。

『サンタクロースの心得』

　黒のサンタ教官が教壇に立ち、サンタの衣装を着た老若男女が教室で授業を受けている。
　主人公の若い女性は、赤いミニスカサンタの衣装に黄色い生足を露出して、もふもふの白いブーツを履いている。
　出演者は全員俳優。映像は１０年くらい前のもの。
　主人公の女性は中々の美人で、２０代前半。
　しかし、彼女の顔と名前を特定してネット検索しても遅い。彼女はグラビアアイドルや女優として活動したが、人気になることなく引退した。
　ミニスカサンタの主人公女優は、決して将来叶うことはない、自分が人気俳優として成功する夢を追い掛けるような真剣な眼差しで、教官の黒サンタの話を席に着いて聞く。
　そんな未来(こと)など露知らず、ナレーションは能天気に続く。

「サンタになると、さまざまな国の子供達と触れ合ったり、プレゼントを配ったりして、人々の人生を豊かにすることが出来ます。
　しかし、サンタの好感度を利用して、マフィアや暴力団員などの反社会的勢力がサンタの衣装を着て近付き、重大な犯罪に子供達が巻き込まれてしまう悲劇を招きました。
　このことから、サンタは免許制になりました。決められた法律を守るのは勿論、子供達や親御さんへの配慮を忘れず、幸福なクリスマスを過ごせるようにサンタは努めなければなりません」