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Lesson3『轌の機構とトナカイの取り扱い』
木々や灌木に色とりどりのイルミネーションを施した、夜の自動車教習所。
教習車が全て車庫に入ると、教官の一人が右手を大きく振る。
その合図を見て、別の教官が厩舎の出入口のアルミゲートを折り畳む。
トナカイ達が轌を引いて続々と厩舎から飛び出し、黒のサンタ教官の手綱に操られて教習所のコースに進入する。
昼間は自動車教習所、夜間はサンタ教習所。
そんな光景は日本の何処にでも有り触れている。
ただ、東京は土地や道路が狭くトナカイの厩舎を用意出来ないため、サンタ講習を行っていない教習所が多い。サンタ講習を行っている教習所は都内にも在るが、授業料は相場より高めである。
サンタの免許が欲しい東京都民は大抵、隣県の千葉や埼玉へ行ったり、地方の合宿免許を利用したりする。
事故防止のため、自動車とサンタの講習が同時に行われることはない。
トナカイ達の角は危険防止のため短く切られていて、雄か雌か判別しづらい。
轌の脚部のスキー板は、アスファルトも氷のように軽やかに滑る。
敷地の外から金網越しに、トナカイを動物園代わりに見物したり撮影したりして楽しむ親子の姿も見える。
轌1台に対して、トナカイは1頭だったり2頭だったりする。
轌は2人乗りだが、リヤカー程度の大きさ。
轌には『教習轌』や『自動車教習所』の文字が印されている。
轌を引いてきた黒のサンタ教官達は教習所の建物前で停め、赤のサンタ教習生を轌1台に1人ずつ案内する。
続々と出発する教習轌。
トナカイ1頭の轌は初心者用で、教習所のコースを廻る。
トナカイ2頭の轌は仮免許を取得した教習生用。MT仕様の教習車が坂道発進と停車を訓練する上り坂を滑走路と発射台にして、夜空へ華麗に舞い上がる。
空中で舞い上がったトナカイと轌は、まず教習所のコースと同じ軌道を廻りながら斜め上へ駆け昇る。コースを3周する頃には100mの高さまで上昇した。するとトナカイ達は斜め上から正面に軌道を変えると水平飛行を開始し、教習所の出入口の上を通過して敷地の外へ飛び出して行った。
次々と上空へ舞い上がる、十数組ものトナカイと轌。
「佐藤さん、佐藤翔さん!」
名前を呼ばれるまで、トナカイと轌が飛翔する姿を夢中に見ていた赤サンタ姿の佐藤翔。
30代後半ぐらいの女性の黒のサンタ教官がトナカイ1頭の轌から降り、左手のバインダーに目をやって佐藤の名前を読み上げていた。
「はい!」
佐藤は女性教官の下へ近寄って会釈する。
「よろしくお願いします!」
「お願いします」
女性教官は慣れていて早口である。
「佐藤さんはトナカイに乗るのは初めてですよね?」
「はい」
「馬車とか乗馬の経験は?」
「ありません」
「それでは一から説明しますね」
女性教官は佐藤を連れてトナカイの前に来る。
佐藤が生まれて初めて間近で見るトナカイは、思っていたよりも小さかった。子馬か鹿ぐらいの大きさしかない。
角を切られたトナカイの頭を女性教官は右手で優しくなでる。トナカイは完全に人に慣れており、人が近づいたり触れられたりしても取り乱すことはない。
「トナカイは非常に賢い動物です。私達サンタが普段乗っているトナカイは、飛行するために品種改良された“浮遊トナカイ”です。自動車との大きな違いは道具ではなくて動物ですから、車の運転よりも早めに指示しなければなりません。自分勝手に操れませんから、動物好きで、責任感のある人でないとトナカイを操ることは出来ません。トナカイによって性格もそれぞれ違いますから、子供と向き合う以上にトナカイにも神経を使って接さなければなりません」
女性教官と佐藤はトナカイの後ろ側に廻って轌を見る。
「続いては轌です。浮遊板と呼ばれるスキー板状の特殊磁石が浮遊トナカイの浮遊気力を活性化させて空を飛ぶことが出来ます。浮遊トナカイの飛べる高さは法律で定められていて高さ100mまでです。高さ100mを超えると航空法違反になります。100m以上の高さを飛ぶサンタも居ますけど、あれはトナカイではなく大型の“浮遊ヘラジカ”で、普通サンタ免許では乗れません。満21歳以上、サンタの運転経験が3年以上でないと、大型サンタ免許は取得出来ません。大型サンタ免許が欲しければ、無事故無違反でサンタ実績を積み上げてくださいね」
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