2人が本棚に入れています
本棚に追加
Lesson4『サンタクロース適正検査による行動分析』
「85ページを開いてください」
教壇の黒のサンタ教官が指示し、教室の赤のサンタ教習生達はテキストを開く。
佐藤翔も教室に居る。
しかし皆が勤勉というわけでもなく、佐藤の前の席に座る、高校卒業と進路が決まって1月~3月中にサンタ免許を取っておこうと惰性的に教習所に来た男子高校生などは、やる気のなさが態度に出ている。
教官は淡々と説明する。
「1番、『サンタクロースに現れる性格』。轌やトナカイの運転技術は同じでも、サンタの振る舞い方は人によって違います。サンタ個人の性格や言動がトナカイや轌の運転、子供達に大きな影響を与えてしまうのです」
教科書には、煙突から落下して焚き木の上で腰を抜かすサンタ、トナカイや轌ごと建物に激突するサンタ、警察官から違反切符を切られるサンタ、子供達を泣かして両親から抗議を受けるサンタのイラストが載る。
「2番の『サンタ事故を起こす人、起こさない人』ってことですけども、サンタの性格や言動、癖などと、違反や事故は関係することが証明されています。サンタの中には、何十年間も無事故無違反無抗議の人も居れば、毎年違反や事故、抗議や苦情を受ける人も居ます」
男子高校生のやる気の無い態度を後ろから見つめる佐藤は思う。
(きっと、この高校生みたいな奴だろうな……)
「図を見てください。これは、あるサンタ人材派遣会社で、自分の会社のサンタに事故、違反、抗議が過去3年間にどれだけあったか調べたものです」
図は2種類ある。
図1は、全体を100%とした円グラフの中に、『事故・違反・抗議・その他』の4つの項目を色分けして全体の割合を示す。
図2は、棒グラフで、こちらも全体を100%としているが2本並んでいる。上記の過失を犯した者達が「0回・1回・2~3回・4~5回・6回以上」の5種類で色分けされており、全体の割合を示す。左の棒は初年度、右の棒は3年後。
「図1の、俗に『サンタの3堕』と呼ばれる『事故、違反、抗議』の割合ですが、事故5%、違反4%、抗議90%、その他が1%未満となっています。その他は、発注ミスや豪雪によって子供達にプレゼントが届けられないと云った不測の事態です」
(豪雪だとプレゼントを届けられないのか……)
「サンタは自動車運転と比べて、事故や違反が少ないです。と云うのは、轌は空を飛びますから、事故が起きると自動車より被害も大きくなります。だから上空では航空警察が交空整理していますので、警察官が見ている前で違反する轌やサンタは元々少ないんですよね。
そうなると、保護者や施設の管理者などからの苦情が圧倒的に多いです」
佐藤の目に、保護者から抗議を受ける男子高校生の姿が浮かぶ。
「図2を見てください。3堕が0回のサンタは3年後も0回って人が多いです。ところが2回も4回も抗議を受けるサンタは、やっぱり3年続けても抗議を受けています。
つまり、悪質なサンタの大半は、何度も抗議を受けるサンタなのです」
最初のコメントを投稿しよう!