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Lesson5『サンタクロースの年収や雇用情勢』
佐藤翔は左助手席に初老の男性黒サンタ教官を乗せ、『公空』と呼ばれる公道の上空100mを、教習轌に乗ってトナカイを時速40㎞で飛行させている。
公空の交空ルールも公道の交通ルールと変わらない。
公道の速度制限は公空でもそのまま適用する。公道の速度制限が時速40㎞なら、公空も時速40㎞。
交差点には信号も浮かぶ。ただしトナカイは自動車のようには止まれないため、踏切のように白く発光するゲートが左から飛び出して止める仕組みだ。
公空には飛行領域や進路を示す、白い発光板が道路の白線のように浮いている。
佐藤は、公道の上空100mを飛ぶことが義務付けられる轌の方が、公道の自動車より道の高低差を意識させられた。
教官は教習生にトナカイ運転中も会話ぐらい出来る余裕を身に付けさせるため、積極的に佐藤にも話し掛ける。
「佐藤さんは、なんでサンタになろうと思ったの?」
佐藤は前を見て手綱を握りながら応対する。
「なんでって、なんでですか?」
「サンタって給料安いじゃん?」
「正社員で新卒採用する企業はまず無いですからね」
「3年適性説で、入社して3年は契約社員だからさ」
「だから先生は本職のサンタは辞めて、教官に?」
「だって、クリスマス以外はトラックの運転手や配達員と一緒だし」
「立派な仕事じゃないですか」
「免許制になってから、サンタを差別する人も増えたじゃん?」
「サンタなんて誰にでもなれると思われていますからね」
「佐藤さんみたいな若い子なら、他の仕事が有るんじゃないかと思ってね」
「なるほど……」
佐藤達の轌の走る公空が交差点に差し掛かる。
公空の信号が赤になり、佐藤は手綱を引いてトナカイをゲートの前で停めた。
佐藤は左右や上下の安全を目視で確認しながら、教官に語る。
「12月26日ってあるじゃないですか」
「サンタの休息日ね」
「サンタやケーキ職人とかでクリスマスを仕事で満喫出来なかった人達の家庭に、サンタをする人の話を聞いて凄く良いなぁって思ったんですよ」
「確かにボクシングデーは良いよね」
「日本でも認知され始めていて、良い習慣ですよね」
信号が青に変わり、前方を封じていた光のゲートが左に退いていく。
佐藤は手綱を振って、轌を発進させる。
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