夢とサンタクロースの旅立ち

Lesson６『トナカイ所有者の心得と保険制度』

「ではＤＶＤを見てください」
　黒のサンタ教官がDVDを再生させる。
　佐藤翔は今日の授業で学科を全て終了するので少し寂しい。

　ある夜、サンタが轌に乗ってトナカイで公空を飛行していると、先を急いでいた後続の別のサンタの轌が追い抜こうとした。
　ところが無理な操作が祟って、トナカイ達はバランスを崩し、サンタも手綱を取られてしまう。浮遊板によって浮かび続ける轌を公空に残し、サンタとトナカイは公空から落下した。
　浮遊トナカイ達は落下中に態勢を整えて再び浮遊気力を発揮して助かるが、特殊能力の無いサンタはそのまま真っ逆さまに落ちて、公道を走っていた乗用車に衝突した。サンタの赤い服で血染めは目立たないが、自動車の運転手も動揺して操作を誤り、他の車両や歩行者達を巻き込んで、更なる交通事故を引き起こした。

　暗い話題だからか、ナレーションは男性だ。

「交空事故が起きても、トナカイの生存率は95%と云われています。
　一方、事故当事者のサンタクロースの死亡率は95％を超えています。
　交空事故は高度100mを飛んでいるため、サンタの命はほとんど助かりません。
　また、交空事故は公道の上空、つまり公空で発生することが多く、真下の公道を走っていた自動車を巻き込み、更なる交通事故を引き起こすこともあります」

　救いや癒しを連想させる軽快なピアノのBGMと共に、ミニスカサンタの主人公が保険会社の窓口にやって来て、従業員から説明を受ける。
「交空事故を起こした場合、トナカイの保有者や轌の運転者には、被害者に対して損害賠償の責任が生じます。
　また、交空事故が原因で公道の自動車事故を発生させると、サンタの全責にされる場合が多く、サンタ本人が亡くなっても家族や親族に高額な賠償を負わせてしまうことになります。
　万一の場合に備えて、絶対に保険には加入しなくてはなりません」

　映像は、テロップによる文章の打ち出しが中心の構成。

「自動車保険の場合、法律によって加入が義務付けられる強制保険と、所有者や運転者が任意で加入する任意保険の2種類があります。
　しかし、自動車事故以上に高額な賠償請求が為される交空事故の場合、自動車の自賠責保険や責任共済のような保険では賄い切れないことがほとんどです。
　そこで、サンタの強制保険は、対人対物の限度額が全て無制限、自動車における任意保険のような高額な保険にならざるを得ないのです
　これからサンタクロースに成ろうとするあなたは、トナカイの飼育だけでなく、この高額な保険料を支払えるでしょうか？
　サンタ派遣会社に所属するサンタが多いのも、このような理由があるからです」