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Graduation『赤いサンタの未来』
「卒業おめでとうございます」
狭苦しい会議室で、スーツを着る初老の教習所所長からB5判の簡易な卒業証明書を受け取る、赤サンタ姿の佐藤翔。
窓から入る日光を見て、佐藤は自分が昼間に教習所に居るのが新鮮に感じた。
佐藤の他には、自動車教習を終えた若者、大型免許を取得した中年の男性、MT免許を取得した30代の女性が居る。
佐藤はサンタの服だが、他の3人はサンタ免許ではないので私服姿。
4人の卒業生達はパイプ椅子に座り、貰ったペーパーを手に、教習所の経営者かつ所長の老人から最後の説明を受ける。
「皆様に渡した卒業証明書を運転免許試験場に提出すれば、実地試験が免除されて学科試験のみとなります。自動車免許なら一発があるけど、サンタクロース免許の場合は教習所の卒業証明書が無いと試験自体受けられないので、他の皆さんもこれからサンタ免許を取ろうと思った際、注意してください。教習所と同じで免許センターでも、昼間は自動車の試験、夜間にサンタの試験と決められていますから、免許センターへ行く時間帯にも気を付けてください」
佐藤翔はロッカーで私服に着替えると教習所を出て、駐車場に停めた黒の軽自動車の後部座席にサンタ服を投げ入れた。
佐藤は運転席の扉を開ける前に、上空100mを見上げる。
青い空、白い雲。
公空を飛び交うトナカイと轌は、下から眺めると蠅のように小さい。
赤い轌は郵便局か赤帽だ。宅急便や宅配便の轌は高層ビルに住む富裕層向けの配送業者だ。浮遊トナカイも轌も高価だから、趣味でドライブする人は少ない。
現在の科学が開発出来る浮遊板では、重たいものを運ぶことが出来ず、まだ大量輸送や公空を飛ぶ旅客バスなどは実現出来ていない。
しかし、もうすぐ自動車やバスが空を飛ぶ時代も来るだろう。
佐藤は次のクリスマスイブ、クリスマス、ボクシングデーにプレゼントを届ける未来の自分を思い描きながら、車に乗って教習所を出て行った。
≪黒サンタ教官の私から、読者のあなたへ≫
教習所では今日も教習が続けられています。
皆さんも夜、地元の自動車教習所を訪ねてください。
未来のサンタクロースを夢見る人々が轌に乗って、助手席に座る黒のサンタ教官からあれこれ指導を受けながら、教習所のコースや公空でトナカイを走らせているに違いありません。
サンタクロースを目指す人々の夢を、温かく応援して頂ければ幸いです。
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