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来る
ピンポーン。
夜も深まったころ、家のドアホンが鳴った。
「ねえ? もしもし? ヨウコ聞いてる?」
「ごめんごめん! こんな時間に誰か来たみたい! 誰だろう…まぁいいや。何の話だっけ?」
「最近こんな噂があるんだけど、白い仮面を被ったピエロみたいな悪魔が出るって話」
「あ~知ってる知ってる! 最近馬鹿みたいに噂になってる白い悪魔とかいうやつでしょ? なんかさ、夜の十二時に一人でいると出るって聞いたよ」
「ヨウコはこの話についてどう思う?」
「どうって…聞かれてもね…。逆にナナコは怖いと思わないの」
ピンポーン。
また家のドアホンが鳴った。
私はリビングのダイニングテーブルの上の時計を見る。兄が彼女とTDLに行って買ってきたミッキーマウスの時計の針は午後11時50分を指していた。
その横にはナナコと彼氏のユウジと海に行った時の写真が飾ってあった。
通りすがりの人に頼んで写真を撮ってもらったもので、シャッターをきった時にユウジが私にキスをした瞬間がその中に納まっていた。
「ん~私は別に怖いとは思わないけど、私も最近聞いたからよく知らないんだけどね。でもさっきまで後ろに誰もいなかったのに…いるのよ。…その白い仮面を被ったピエロみたいなのが。なんか面白くない?」
「え~何それ? 超怖いじゃん。絶対それ嘘くさいし」
「それで魂をす~っと吸いとられるんだって!」
「嘘くさい…。あのさ…聞くけどさ…。実際にその悪魔にとり憑かれたとして、その噂はいったい誰が広めたのよ」
「さ~」とナナコは適当に相槌を打った。
「え~? 目撃者は? いるんでしょ?」
「どうだろうね。……はは」とナナコは誤魔化すように笑い、「けどけど! 抜け殻になった自分に…その白い悪魔がのりうつるんだよ! その悪魔が何かしてると思うでしょ?」と鼻息を荒くした。
「何それ。超信じられないんだけど。目撃者もいないのに、ナナコは信じるの?」
「私は信じてるよ」
「ふ~ん。それでその後はどうなるの?」
「それでその悪魔に遭遇した人は行方不明になって消えちゃうんだって!」
ピンポーン。
またドアホンが鳴った。
私はリビングから玄関の方に視線を向ける。
父と母は旅行に行っていて、家にいない。兄も今日は大学の飲み会で家にはいなかった。
昔からそうだ。両親も兄もいつも家にいないことが多い。
学校以外のことで家から出ることが嫌いな自分とは正反対である。
だがそう思った瞬間、寒気が全身に走った。
「ていうかさ~…本当かどうかもわからない噂話するのやめようよ」
「つい数時間前も女の子がこの辺で失踪する事件があったらしいしね…」
「うそ?」
「行方不明になった場所に、…この間まで行方不明だった人の死体が見つかってるんだって…」
「今まで行方不明だった人の死体? どういうこと? それ本当なの?」
「私が聞いた話はそんな感じだった。それで行方不明になった女の子は…数時間前に商店街で下校途中だったのかな? その目撃談があったのが最後で、そこから行方がわからなくなったんだって」
「何その怪事件? ほんとに実話なの?」
「え? 知らない? さっきからSNSでも話題になってるよこの話!」
「へ~…そうなんだ。それでこの話とその白い悪魔がどんな関係があるの?」
「だから言ってるじゃん~! その白い悪魔が失踪者に取り憑いてるんだって!」
「いやいや…。もう本当呆れるわ…。あんた本当そういう話好きだよね~」
ピンポーン。
私は立ち上がって玄関まで足を運んだ。覗き穴を見て外の来訪者を確認する。だがそこには誰もいなかった。
いたずら?
私はまたリビングまで戻り、ソファーに体を預けた。
「でも…これマジでヤバくない? 仮に自分がその白い悪魔に狙われてたらって考えると…体の震えが止まらないよ」
「大丈夫だよ。ちょっと気にしすぎじゃない?」
「だって~怖いじゃん! 近くに誰もいない時が危ないみたいだし…」
「ナナコ~。あたし等もう高校生だよ? はあ~ぅ。眠くなってきた…そろそろ寝ようよ? 明日もまた部活で早いし」
「ヨウコ~。次は私達かもしれないんだよ?」
「そんなことあるわけないじゃん。…もう切るよ?」
「そういうこと言ってると…」
「何? 私って言いたいの? 本当くだらない。あり得ない。じゃあ、もし危なくなったら私の好きな人にでも守ってもらうから」
「好きな人ね……」
ピンポーン。
ああ! もう! さっきからいったい誰なのよ?
私はスマホを耳に当てたまま、玄関の扉を開けて、外を確認した。
だがそこには誰もおらず、エレベーター通路に繋がるマンションの廊下は不気味なぐらい閑散としていた。
「何よ?」
「いや別に~。ただわからないよ~って言いたいだけ。悪魔とか幽霊って私達の想像を超えてるでしょ」
「だからそれが何よ?」
「だから~! 何があるかわからないって言ってるの!」
私は顔を左右に動かして周囲を確認するが、人の気配はどこにもなかった。
「まあ確かにそうね。…それが本当ならちょっと不気味すぎる。ああ寒! なんか冷えてきた。じゃあ何かあったらユウジに助けてもらうことにするわ」
「ユウジ?」とナナコは聞き返してきた。
「いやユウジはユウジでしょ。私の彼氏じゃない。ナナコ? 気になってたんだけど……その話は誰から聞いたの?」
私は玄関の扉を閉めて、鍵をかけた。
「ヨウコって今は一人?」
「そうだけど。…まぁパパとママは旅行で兄貴は飲み会だし…。それが何?」
「……」
「ちょっと~何よ~~? そういうのやめてくれる?」
私は自分の部屋に向かい、明かりをつけてベッドの上に寝転がった。
部屋の壁の時計に視線を走らせると時計の針は午前0時を指していた。
「ナナコ?」
「な…な…ならば、お兄様にお早くお帰りになられるように早急にご連絡をされた方がいいですよ」とナナコは不気味に笑った。
「いやよ」
「左様でございますか。ですが今すぐあなたはどなたかに助けを求められないとお危ないですよ」とまた寒気を誘うような笑いをした。
「だからいやよ。高校生にもなって怖いから早く帰ってきてって連絡するの? 有り得ないし。それになんで、さっきからそんな他人行儀なのよ?」
「あ! これはこれは申し訳ございませんでした。貴方様を不快なおもいにさせてしまうと思いまして」
「だからもうやめてよね~。私そういうの苦手なんだから~~」
「いえいえ! わたくしは貴方様は軽いジョークにも合わせて下さるような、気さくで人当たりの良い方だと伺っております」
「あれ? なんか一人称が変わってない?」
「これはこれは…重ね重ね混乱を招いてしまい、たいへん申し訳ございません。これがわたくしの本当の一人称でございます」
「ナナコ? さっきからどうしたの? やめてよ…」
「いえいえ! 冗談ではありません! 先ほどからわたくしは何度も申し上げたではありませんか。…お気を付け下さいませと」
私はベッドから体を起こす。
「ねぇ? あんた…誰?」
そう言った時、誰かが私の肩をつついた。
後ろをゆっくり振り向くとそこには白い仮面を被ったナナコがいた。
了
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