親戚の女の子が出したなぞなぞとは?

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親戚の女の子が出したなぞなぞとは?

 小学校の五限目の授業の終わりを知らせる鐘が鳴ると教室内は生徒同士の会話で騒々しくなっていった。  「なあ? 大竹?」 「なんだよ?」  隣に座る親友の沢村が教科書を机の中になおして、こちらに顔を向ける。 「お前、今日は塾の日か?」 「いや。何もないけど」 「なら、ちょっとやってもらいたいことがあるんだが、いいか?」 「いいけど、どうしたんだよ?」 「お前に見せたいものがあるんだ」 「見せたいもの?」  俺は自分の眉をしかめて、沢村の顔を見る。 「ああ。昨日、久しぶりにじいちゃんの家に遊びに行ってさ。じいちゃんの家に来ていた、親戚の女の子とずっと二人で遊んでたんだ。それでさ、俺たち二人で遊んでたんだけど…」 「ん?」沢村は机の中からノートと鉛筆をとって、何かを書き始めた。 「大竹これ何かわかるか?」  聞くの右には言うがあり、山の右には花がある。  ではしわきの右には何がある? 「なんだこれ?」 「大竹これ見て何かわかるか?」  俺は沢村が書いた奇妙な文を見て顔を傾けた。 「ああ。やっぱりわからないよな。いや実は俺もなんのことか全然わからなかったんだ」 「これはその女の子が考えたのか?」 「そうそう。サキちゃんって言うんだけど、なぞなぞが大好きな子なんだ」 「へ~。それで他にヒントとかないの?」 「ヒント? ん~……それはなかったかな。ていうかずっと怒っていたし」 「ずっと怒ってた?」 「うん」と沢村は頷いた。 「へ~。…それで沢村は俺にこのなぞなぞを解かせてどうしたいわけ?」 「実はこのなぞなぞが自力で解けたらまた今度、新しいなぞなぞを教えてくれるって言うんだ」 「ふ~ん」  なんとなく、適用に相槌を打って、話を聞き流す。 「こんな謎々とかすぐに作っちゃうんだぜ? だから次にサキちゃんが出してくる新しい謎々がどんな謎々が気になって仕方ないんだよ!」 「ふ~ん」  一生懸命話す沢村の発言に俺はめんどくさくなった。  俺は机の中から、授業の教科書を出して、帰る用意をすると、「真剣に俺の話を聞いてくれよ!」と沢村は顔の前で手を合わせて何度も俺にお願いをする。 「それならクラスで頭のいい前田に聞けよ」 「そんなこと言うなよ! ちょっとぐらい、いいだろう?」 「じゃ、それはお前一人の力で解くべきだな」  俺は沢村から顔をそらして帰る用意を続けていると、「頼むよ~! 俺たち親友だろう!」と両手で俺の腕を掴んで泣きついてきた。  なぜか、沢村はひつこく食い下がってきた。 「サキちゃんはお前、一人の力で解いてほしいのだと思うが?」 「そんな薄情なことを言うなよ! 大竹頼むよ~!」  しつこく泣きつかれ、俺は露骨にため息を吐いた。 「わかった。わかった。じゃあ一緒に考えてやるよ」 「おお! さすが親友! 困った時に頼れるのはやっぱりお前しかいないよ!」  本当に都合がいい奴だなと呆れかえる。 「けど、何度も言うが俺なぞなぞは苦手だからな」 「大丈夫だって! お前いつも国語で百点とってるじゃん!」 「テストとなぞなぞをいっしょにするなよ」 「まあまあ。じゃあ早速考えていこうぜ」  聞くの右には言うがあり、山の右には花がある。  ではしわきの右には何がある?  さて、まずはどうしようか。 「なあ? お前何かこれ見て気づいたところはないか?」  俺は腕を組んで考える沢村に声をかける。 「う~ん。聞くの右に言うがある? まず、これはどういう意味だろう」 「わからないように言いかえているのかもな」 「言いかえている?」 「例えば、【聞くの右に言うがあり】の部分だけを考えると、聞くって言葉を連想すると何が思い浮かぶ?」 「聞く…耳?」 「だよな。聞くって聞いて連想したらまず【耳】が思い浮かばないか」 「じゃあその線で考えるなら、【言う】なら【口】ってことか? 耳の右に口があるもの? なんだそりゃ…? そんな物あったっけ?」 「耳の右に口があるもの…。まだそれだけじゃわからないな…。次の【山の右には花がある】を先に考えるか」 「これもまた意味不明だな~。ヤバい。何度、見ても何もわからないや…」 「お前もちゃんと考えろよ」 「だってよ~、さっきの【聞くの右には言うがあり】の線で考えるなら、【聞く】も【言う】も動作を表しているじゃないか。つまり、その部位のことを表しているかもしれないってことになるだろ?」 「そういうことになるな」 「じゃあさ、【山の右には花がある】ってすでに名詞になっているじゃん? これから連想できる物って何かあるか?」 「山から連想できる物か…」 「ホラ見てみろ! わからないだろ? 絶対そうなるって! 山なんか木しか思い浮かばないだろ?」  木か…。木…川…森…。 「山は自然?」 「ん~…。なんか違うような気がするな…」 「まあ、とりあえず、その線で考えてみようぜ。となると花は植物ってところか」  う~んと沢村は顔をしかめて考えるが、何も思い浮かばなかったようだ。 「ダメだ。ギブアップ」 「ギブアップって…もうちょっと頭使えよ!」  沢村はノートを見て再度、挑戦するが「あああああ!」と急に頭を抱えて教室の床の上で激しく転がった。 「わからん! わからん! わからん! わからん! どうしても俺には解けないよ!」 「沢村! あきらめるの早すぎだろ」 「解けないものは解けないって! 大竹にもそういうモノがあるだろ」 「あるけど…親戚の女の子が作った謎々なんだろ? じゃあどこかにヒントがあるって」 「この文章のどこにヒントがあるんだよ!」  沢村は怒ってノートを俺の顔の前に掲げる。  聞くの右には言うがあり、山の右には花がある。  ではしわきの右には何がある?  ヒント…。ヒントか。俺は何度もその文章を読み返したが、何もピンっとこなかった。 「端っから俺にはこんな文字の言葉遊びの謎なんか解けないんだよ…」  ん? 文字? 待てよ。もしかしたら俺達は何か大きな勘違いをしていたのではないだろうか。 「ダメだ。俺、馬鹿だから何も思いつかないよ」  俺は自分の頭をかいて、この文章の意味を深く考えたみた。  聞くの右には言うがあり、山の右には花がある。  頭を激しくかくが何も思いつかない。  最後のしわきの右には何がある。しわきとはなんだ? そんなもの聞いたこともないし、言葉として成り立っているとも思えない。 「沢村? サキちゃんはしわきについて何か言ってなかったか?」 「う~ん」と沢村は目を瞑り、昨日のことを思い出しているようだった。  だが、徐々に沢村の顔が赤くなっていき、考え過ぎた沢村は力尽きて倒れてしまった。 「すまない。やっぱりダメだった」  やっぱり沢村の知恵を少しでも頼った自分が馬鹿だった。 「俺、日本語嫌いだ」 「おいおい。そんなこと言ってたら生きていけないだろ」 「漢字なんか特に嫌いだ。日本の文字がすべてひらがなだったらよかったのになっていつも思うよ」 「そんなこと言っても漢字は日本社会からなくならないから安心しろ」と言うと、沢村は急に倒れ、「沢村!」と叫ぶも、沢村は自分の机を派手に倒して、気を失った。  机の中の教科書やら、国語辞典が沢村の倒れた横で落ちていた。  俺はそれを拾いながら、「おい!」と沢村を呼んでも起き上がらなかったので俺はため息をついて、しばらく放っておくことにした。  沢村の国語辞典を手に持った時、あの文章をもう一度見た。    聞くの右には言うがあり、山の右には花がある。  ではしわきの右には何がある?  もう一度じっくり最後の言葉を見る。しわき…。  そういえば、なんでこれだけひらがななのだろうか?  俺は腕を組んで、唸りながら考えた。  ひらがな?  その時、電気のような物が頭の中を走った。  俺は手に持っていた国語辞典を開いて、 「そうか! 沢村! わかったぞ!」と倒れている沢村に向かって叫んだ。 「え! それは本当か!」 「ひらがなだよ! ひらがな!」 「ひらがなはわかったけどどういう意味だ?」  国語辞典の巻頭にのっている五十音表を指でさす。 「ひらがなの五十音表を書いてみろ」と言うと沢村はノートの余白にひらがなを書いた。 「それで沢村! 五十音のきくの隣には何がある?」 「きくの隣…あ! いうだ!」 「そう。じゃやまの右は?」 「花だ!」 「もうわかっただろ? しわきの隣は?」 「きらい…きらいか! そういうことだったのか!」 「そういう暗号が隠されていたんだな」 「やった! ありがとう大竹! やっぱりお前は俺の大親友だよ!」 「よかったな。これで新しいなぞなぞが教えてもらえるじゃないか!」 「ああ! 今日、早速帰ってサキちゃんに言ってみるよ」  そうして、沢村は家に帰り、サキちゃんに電話をして、解読したなぞなぞの答えを伝えたらしい。  沢村がこのなぞなぞの答えにこだわる理由はいったい何だったのだろうか。  まあ、だいたい予想はつくが。  しわきの右には何がある。つまり(きらい)なのだが。  きらい。きらい……。嫌い?  そう言えば、沢村はサキちゃんがずっと怒っていたと言っていた。  まさか、そのサキという女の子は……。  まあ、どうでもいいか。俺には関係ないし。  これは後日談だが、沢村が自力で解けるはずがない事は本人もわかっていたようで、問い詰められた本人は本当のことを言ってしまったらしく、結局会うことができず、新しいなぞなぞは教えてもらえなかったそうだった。                              了
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