ツウィートしただけなのに

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―――えぇ!? ―――セナじゃなかった・・・! ―――一体誰!? 明らかに性別が違うが、由佳のハンドルネームを呼んでいるため確実に自分のことを知っている。 とはいえ、電話で聞いていた声とも違った。 「あ、あの・・・。 どちら様ですか?」 「僕だよ僕。 ここで待ち合わせをしていたよね?」 「・・・え? 本当にセナなの!?」 「そうだよ」 彼は見た感じどこにでもいそうな細身の青年だった。 歳は20~30くらいだろうか。 パッとしないというのが第一印象だ。 由佳が想像していたセナは快活なショートカットの少女。  服の話もしたことがあるし、こんなに地味な格好で待ち合わせに現れるとは思えなかった。 「え、で、でも・・・。 どう見ても男の人じゃん・・・。 それに、聞いていた年齢と大分違うし・・・」 「ネットというのはそういうものだよ。 性別や年齢を偽る人の方が多い」 「そ、そうなの?」 「うん。 でも結果的には由佳を騙すことになっちゃったかな。 ごめんね、どうしても由佳とは仲よくなりたくて」 ―――由佳呼び・・・。 ―――セナと同じだ・・・! 本名を知っているネット上の知り合いはセナしかいない。 “ゆーか”から想像することはできるが、本名にこれだけ近しいハンドルネームを使う人も少ない。  だがそう思うも全ての疑問が晴れたわけではなかった。 「じゃあ声は? 電話していた時と、かなり違うけど・・・」 「電話と実際の声は普通変わるものだよ」 確かに彼の言い分は分かる。 だけど今の彼の声と電話での声の差はそんなものではない。 「え、えっと・・・。 じゃあ服は? 聞いていた服と違うんだけど・・・」 「昼食を食べていたらうっかりこぼしちゃって、着替えざるを得なかったんだ。 ごめんね、伝えることを忘れてて」 「・・・」 「安心してよ。 中身は本物のセナのままだから。 ・・・そうだね、待ち合わせ時間も少し過ぎちゃったし、騙しちゃったから何かお詫びをさせて」 「お詫び?」 「うん。 何か買ってくるから、由佳はここで待っててね」 そう言うと男は去っていった。 その姿が見えなくなってから、隙を見てツウィートする。 “今セナと会ったんだけど、想像と全然違った! 同い年の女子だと思っていたら、大人の男性でびっくり!”  投稿すると早速返信がきた。 由佳自身どんな応えを望んでいるのか分かっていない。 だが今の状況でセナと名乗る男を信用することは難しい。  知らない大人の男性と二人きりになるというのは正直怖かった。 “何それww ネットあるあるじゃんw” “え、そうなの!? 初めてネットの人に会ったから、知らなかった・・・” ―――こうやってネットでは偽るの、よくあるんだ・・・。 “マジか、怖いね” “マジだよ! 怖いけど、相手がセナだと思っていたら平気!” “襲われないようにねw” “襲われるって何ですか(笑) 大丈夫です!” “その人、本当にセナさん?” そのメッセージを見た瞬間、文字を打つ手が止まった。 ―――冬真さん・・・。 ―――正直今動揺しているから、冬真さんとお話をしていると安心する・・・。 セナが本物なのか偽物なのか由佳には判断することができない。 それでも心配してくれる冬真が今の状況を認めてくれれば、少しは安心できるだろうと思った。 “多分、本物のセナだと思います!” “うーん、心配・・・” “大丈夫ですよー! いつも心配してくれてありがとうございます!” 分からないが、由佳という名前で呼ばれたことは事実でそれはツウィッターでやり取りしたセナしか知らない。 人目がつく場所では絶対に本名は晒していない。  だがセナや他の誰かが情報を漏らしていれば別の話。 本物のセナが誤って名前を出してしまった可能性もある。 そのようなことをぐるぐると考えてはみたが、結局よく分からなかった。 “今日はいつも以上に心配なんだよ。 できれば今日の出来事を細かくツウィートしてくれる?” “はい! 最初からそのつもりです!” “よかった。 本当に気を付けてね” 返信を終えると丁度男が戻ってきた。 とりあえず、今のところ悪意は感じられないため信じてみようと思った。  もしツウィッターでやり取りをし、電話していたセナであるなら大人の男性でも信じられると思ったのだ。 「お待たせ。 はい、由佳の分」 「あ、ありがとう! 待って、お金を返すから」 「お金はいらないよ。 これはお詫びだって言ったでしょ」 「でも」 「素直に受け取ってくれたら嬉しい」 「・・・ありがとうございます」 「うん。 やっぱりネットでもリアルでも由佳はいい子だね」 手渡されたミックスクレープは普段の由佳ならなかなか買うことのできない代物だ。 その気持ちは素直に嬉しかったし、彼の優し気な笑顔は不安を少しずつ取り払ってくれたのだ。
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