明日、光の庭でなら

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 郊外の一角に荒れ果てた庭と埃にまみれた家。俺んち。  遠い親戚の莫大な遺産で俺は働かなくても暮らしていける。事故で両親が死んだ時、税理士(?)が来て色々してくれた。この家もそう。  てきとーに食って、てきとーに寝て過ごす。銀行残高は僅かにしか動かない。  梅雨がやってきそうな薄曇りの初夏、縁側で横になって虫に刺されていると庭のスグリの木が揺れた。  見れば庭に闖入者が。うちの門扉は鍵などかけていない。  スレンダーな男が赤く色づいた庭のスグリの実を食べていた。 「そんなもん食ってうまい?」  俺が声をかけると驚いて振り向いた。草がぼうぼうの庭で寝転んでいた俺の姿が見えなかったのだろう。 「‥美味くない」  汚い男だ。汚れているし、痩せている。  白いシャツとチノパン。どちらも黒ずんで元の色を失いつつある。 「‥ピザくう?」  男はしばらく無言でこちらを見つめ、やがてうなずいた。    
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