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 朝5時になり、スマホのアラームが鳴ると、俺はゆっくりと目を開ける。視界がまだぼやけているが、俺は体を起こすと、カーテンを開け、日光を体内に取り入れた。それで視界がやっと明瞭になる。  今日は午後に1本歌番組の収録が入っている。最近連ドラの主題歌を担当して話題になった『虹』という曲だ。あれは、有馬にとってかなりの自信作だそうで、本人も周りからの評価に満足している様子だ。  俺は洗面台に行って顔を洗うと、歯を磨き、髪を整える。肌にスキンケア用のクリームを塗って、それから部屋に行ってスーツに身を包んだ。ブラックコーヒーを淹れ、カフェインで目を覚ますと、ふーっと息を吐く。  その間に、メールのチェック、スケジュールの再確認、有馬や俺が今までデビューさせてきたMinamiや、モネ、soraの評判をネットで検索する。どれも人気な評判であることに、笑みを浮かべると、ブラックコーヒーを一気に飲み、カップを食卓に置いた。 「行くか」  俺はそう言って緩めていたネクタイを締めると、カップを流し台に置いて、荷物を持って家を出る。5時半というまだ朝が早い中、俺は事務所まで1時間掛けて車で向かった。事務所から有馬の家までは、30分もかからないから、遅くても8時15分に出れば9時、15分前に着く。収録は13時からだし、スタジオ入りする時間より1時間早く着くように見積もっているから、どんな非常事態が起こってもきっと大丈夫だろう。  俺は事務所の駐車場に車を止めると、鍵がかかったのを確認して、事務所に入る。中には既に数名のマネージャーがパソコンに向かって作業をしていた。マネージャーの朝が早いのは、誰もが共通のようだ。  だが、これがアーティストではなく、役者の、しかも人気な役者のマネージャーだったら。きっと、さらに忙しいのだろう。 「おはようございます」  俺は既に仕事を始めている女性マネージャーの2人に挨拶をすると、向こうが「おはようございます」と言った。1人はMinamiのマネージャーの守屋茜(もりやあかね)で、もう一人はモネのマネージャーの沢渡咲良(さわたりさくら)だった。 「甲斐さん、有馬くん、相変わらず引っ張りだこじゃないですか」  守屋がそう言うと、隣で作業していた沢渡が「ちゃんと睡眠取れてますか?」と心配そうに言う。だが、実際その視線は俺にではなくパソコンに向けられていた。心配そうと言ったが、訂正しよう。明らかに棒読みで、感情はこもっていない。 「まぁ、一応。守屋と沢渡の方は大丈夫なの?」  俺はパソコンを起動させながら言うと、2人とも「何とか」と言った。 「Minamiは最近映画の主題歌やったから、歌番組引っ張りだこだよな」 「有馬くんと何度も共演できるって言って、はしゃいでましたよ」 「Minamiは有馬に憧れてデビューしたからな」 「今日の歌番組も有馬くんと一緒で、昨日からテンション爆上がりでした」 「そう」  俺は起動したパソコンのタッチパネルでインターネットを開くと、有馬のスケジュールを開く。そこには来年の春までびっしり予定が詰まっていた。所々、ラジオの出演やバラエティ、役者としての仕事の予定も入っている。 「モネも甲斐さんと有馬くんに会いたいって言ってましたよ」  沢渡がパソコンを操作しながら言うと、「有馬に言っておくよ」と返し、早速仕事に取り掛かる。オファー内容をチェックし、それをドキュメントにまとめながら、データが消えた時ように、スケジュール帳にも記入した。 「あれ、早いですね」  事務所の扉を開けてすぐに立ち止まったsoraのマネージャーである志賀良太(しがりょうた)が俺たちを見ると、「おはようございまーす」と明るい声で言う。 「おはよう」  俺は挨拶を返すと、「久しぶりですねー、甲斐さんと会うの」と隣に座った志賀が言った。俺は「そうだな」と返しながら、パソコンを操作する。 「有馬くん、相変わらず人気みたいで」 「soraもな。最近、アニメの主題歌やっただろ。今、世界中で人気になってる」 「いやー、嬉しいですよね。soraが世界で知られるようになった切っ掛けですから」  志賀が嬉しそうに言うと、「いつか世界でライブしてみたいなぁ」とキラキラした瞳で言う。soraは恥ずかしがり屋だから、ただでさえ日本でもライブをやらずに、最近やっと歌番組に生放送では無いかつお客さんが入らないなら仕事をOKするようになったのだから、世界でのライブは嫌がると思うが。でも出来たら本当に凄いだろうなと俺は想像を膨らませる。  うちの4を担当するマネージャーが同じ空間にいるのは、何だか変な感じだ。全員忙しいから、こうやって全員揃うのは本当に珍しいことだった。  今若者から絶大な人気を誇る、女性シンガーソングライターのMinami。  SNS発のアーティストとして、元から人気で、最近うちでメジャーデビューした新人のモネ。  その素顔を人前では晒さない、ハイトーンボイスに不思議と口ずさんでしまう中毒性の曲が売りの覆面アーティストのsora。  そして曲、ルックス、全方向において絶大の支持を受ける東雲有馬。  俺はちらっとパソコンの隅に表示されている時刻を確認すると、7時と表示されていた。あれから30分程度しか経っていない。既にやることは終わってしまった。俺はパソコンを閉じると、一度大きく背筋を伸ばす。周りではまだパソコンを睨むようにして仕事をしているマネージャーたちがいた。 「仕事しながらでいいんだけど」  俺は会ったら話そうと思ったことを口にすると、全員がこちらを一斉に見て、またパソコンを見る。 「何ですか?」  パソコンを操作しながら志賀が言うと、俺は「昨日な」と語り始めた。 「コンビニに昼食を買いに行ったんだ」 「はぁ……」  守屋が呆れたように言うと、俺は「それが大事なわけじゃなくて、この後」と言う。守屋が苦笑を浮かべて、沢渡は相変わらずパソコンを睨むように見ていた。 「一人の少女と出会った」  その言葉に、あれほどパソコンのキーボードを叩く音で充満していた部屋の音が、しーんと静まる。全員がこちらを見ると、「それで?」とあまり興味を示していなかった沢渡が食い入るような眼をして俺を見た。言葉にはきちんと感情が籠っている。 「その子を、と思っている」  その声に、全員が敏感に反応した。
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