きみのかほり

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 私の得意先は、本間君が引き継ぐことになった。  吉岡先輩が、本間君に私の取引先の資料を与えては、あれやこれや仕事を教えている風景を、私は退職の日まで、ぼんやりと見つめ続けた。  やがて、その日が来た。  机の荷物などを片付けている私のもとに、外回りから戻った本間君が寄ってくる。 「流美さんお疲れ様。仕事はちゃんと僕が引き継ぐから、身体ちゃんと治してね」  本間君は後ろ手に持っていた何かを、そっと私に差し出した。 「なんか、この薔薇、流美さんの匂いと似てるなぁ、って花屋で思って」  本間君は意味ありげに笑って、退職祝いには不似合いな黒い薔薇の花束を、私に手渡す。  そして、怪訝な顔をする私の耳元でこう囁いた。 「黒薔薇の、花言葉って、知ってます?色々あるけど、僕が好きな意味はね……」  本間君は、顔に薄く笑いを浮かべて、語を継いだ。 「……束縛」
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