君だって

2/3
1185人が本棚に入れています
本棚に追加
/152ページ
「呉上さんにも、好きにさせてたの?」 「違う。そんなんじゃない……。それに、呉上さんは悪くないんだ。俺が、彼の優しさを履き違えて、抱いてほしいって頼んだから——」 「でも、一回きりじゃないんでしょ? 呉上さんは毎週、自分で望んでここに来てたんじゃないんですか」 ボランティアでそう何度も関係をもつはずがない。 この期に及んで、瀬戸内が呉上を必死に庇う理由が、わからなかった。 湯川からすれば、呉上は神様なんかじゃない。 一歩会社を出たらもう、どうしようもなくだらしない、ただの普通の男にしか見えなかった。 瀬戸内の歯切れの悪い回答は、徐々に強烈な不快感となって、湯川を震えさせた。 「それともあれか。枕営業?」 ガムを吐き捨てるように雑に言い放った時、瀬戸内が目を見開いた。 深く傷ついた表情を見た時は、後悔より先に怒りが込み上げてきた。 「ひどい……」 「ひどいのはどっちだよ!」 思わず声を張ると、瀬戸内は俯いて唇を噛み締めてしまった。 気づくと、自身も肩で息をしていることに気づき、ゆっくりと深呼吸をする。 しかし、丁寧に呼吸をするたび、神経が過敏になって痛みが広がっていくようだった。 ——自分は傷ついている。 この状況に、はっきりとショックを受けていた。 「自惚れかもしれないけど、瀬戸内さんは俺に好意があるのかと思ってました。俺も、きちんとそれに応えたい、ちゃんと始めたいって考えてました」 「湯川君」 背後から抱きついてくる。 密着すると、呉上の気配までもがまとわりついてきそうで、不快だった。 腹部に回された手を、素っ気なく解いた。 「瀬戸内さんのことがわからないです。俺のこと、からかってたんですか?」 「からかってない。そんなことするはずない……。ただ————」 ふたたび抱きついてくるが、もう解く気にもならなかった。 必死に振る舞われるたびに、虚無感だけが広がっていく。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!