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迷路
結局、瀬戸内が泊まりに来ることはないまま、週末を迎えた。
予定のぽっかり空いた土日、湯川は大智の残していったものを整理した。
彼の部屋着や予備用に置いてあったSサイズのワイシャツをゴミ袋にまとめ、歯ブラシを捨てる。
ふたりで輸入食材の店に行った際「一緒にあけよう」と買い溜めをした缶詰も、ひとりですべて開けた。
彼の物を処分している時、不思議なほどに感情は揺らがなかった。
やはり、とっくに一区切りついていたのだろう。それを認識するのを恐れていただけなのかもしれない。
すっかり片付いた部屋で、缶詰をつまみにビールを飲んでいた時、ドアにかけてある瀬戸内のスーツと目が合った。
どうしよう。
自宅へ送ってしまおうか————
しかし、それも女々しい気がしてならない。
視界に入るたびに心がざわついて、クローゼットの中に仕舞った。
大智との思い出はこんなにさっぱりと片付けることができたのに、瀬戸内のことになるとだめだ。
彼の名残は、部屋のあちこちにこびりついてしまっている。
スマートフォンを取り出し、一度は瀬戸内の写真を消したが——ゴミ箱フォルダを開き、ふたたび復元した。
こんな無防備な寝顔を見せておきながら、彼にはその気がなかったのだろうか。
抱いてと自ら懇願するほどに、呉上を好いていて、自分は結局、当て馬だったのだろうか。
エレベーターホールで、呉上と話しながら笑っていた瀬戸内の顔——それを思い出すたびに、胸がしくしくと痛むのだった。
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