迷路

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「瀬戸内さん」 彼は湯川のボトムスに手を伸ばし、ファスナーをおろした。 下着の中に手を入れられると、情けなくも「やめてください」という言葉が引っ込んでしまう。 「嫌わないで。お願い。君に嫌われたら、どうしていいかわからない……」 指先が絡みついていたかと思ったら、やがて、熱い粘膜にすっぽりと包まれた。 息が、小刻みに漏れてしまう。 この男は、会社で一体なにをしているんだろう。 「んっ、ん……——」 乱れのないスーツを着て、自分のデスクで—— 舌で、根元から先端にかけてゆっくりとなぞられる。 先端に到達すると、深く咥え込みながら上下させた。 唾液の音と、彼の吐息が漏れるたびに、湯川はどうにかなってしまいそうだった。 「瀬戸内さん、やめてください」 髪を掴んで離さそうとすると、整えられた前髪が乱れて——不覚にも興奮してしまった。 あ、やばい。 慌てて引き剥がしたのと、達したのはほぼ同じタイミングだった。 白濁が、瀬戸内の頬や額、髪に飛び散る。 「あ……」 湯川は息を整えながら、その姿をしばらく呆然と見ていた。 そして、 「……汚されて、満足しました?」 冷たく言い放った後で、やはり後悔した。 この男は、簡単に傷つくのだ。 湯川は黙ってハンカチをポケットから出すと、自分も膝をついて瀬戸内と目線を合わせた。 「ごめん」 そして、顔をそっと拭ってやる。 すると、彼は手を重ねてきて、首を左右に振った。 しばらくの沈黙。 湯川はため息を吐いて、後頭部を撫でてやった。 「いつも、こんなこと……簡単にしてるんですか」 瀬戸内はふたたび、首を左右に振った。 否定ではあったが、動作があまりにも弱々しく、はっきりとした合図だとは受け取れなかった。 「ただ俺は……湯川君にこれ以上失望されたくなくて、許してほしくて……」 むしろ、逆効果だ。 湯川は、突っ込みに近い本音を、かろうじて喉元に留めておいた。 彼が先日から冷静さを欠いていたのは知っているし、彼なりに、おそらく必死なのだろうことも伝わったからだ。
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