芝生を蹴る

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「なんかもう、振り回されたりすんのに疲れたんだよ。そろそろ穏やかな恋愛がしたいわけ」 「瀬戸内サンとじゃ、穏やかな恋愛ができなさそうなんだ?」 なぜか、こちらを見ながらにたにたと笑っている。 湯川がぎこちなく頷くと、間瀬はとうとう吹き出した。 「なんだよ!?」 その反応がさっぱり理解できない。 しかし、彼は1度笑い出すとなかなか止まらないので、湯川は焦ったく思いながらも、それが治るのを辛抱強く待った。 「やー、やっぱお前にぴったりだわ。瀬戸内サン。初めて会った時はわかんなかったけど、聡介のどストライクなんだね」 どストライク? なんの冗談だろうか。 湯川の唖然とした表情を見た彼は、ふたたび笑い出した。 「聡介はさ、振り回されんの大好きなんだよ。自覚ないの? 今まで付き合った相手、全員そうじゃん。今更、穏やかな恋愛なんていったってムリムリ」 「違うって! 俺は別に振り回されたいわけじゃ……」 「そうか? 昔から俺とかヒラジが『あいつはやめとけ』って言っても、自分が決めたら曲げなかったじゃん。で、痛い目見ても、ぜんっぜん学習しねーし。あれだな、もうお前の性癖なんだよ、それ」 間瀬があまりにもからりと、明るく言い放つものだから、湯川は怒るタイミングを見失ってしまった。 しっとりと、手のひらに汗が滲む。 「それに、バーベキューに連れてきた時点で『ああ、聡介はこの人と付き合うつもりなんだな』って思ったけどな」 「なんでそうなるんだよ」 「お前、彼女とか好きな子できるとすぐ仲間内に紹介したがるじゃん。ってか、俺以外の奴らも大体、察してると思うよ。瀬戸内サンがニュー彼氏になるんだろうなって」 湯川は絶句した。 バーベキューに誘ったのは、本当にただの流れだ。 瀬戸内が、川原で焼きそばを焼いていそうなどとこちらを煽るから———— しかし、瀬戸内のことを一度思い返してしまうと、否定や理屈などを制して、彼に対する単純な思いが、とめどなく溢れ出すのだった。 彼が可愛い。 彼が心配だ。 彼のことを放っておけない。 そして自分はやっぱり、彼のことが好きなのだと。 「瀬戸内サン、バーベキュー場でお前の写真ばっか撮ってたよ。訳ありとか癖が強いとか、細かいことはわからんけど、とりあえず聡介のこと、大好きなんだね」 フットサルコートを見つめたまま動かない湯川の肩を優しく叩いて、間瀬が言った。 コートのほうから、メンバーのひとりが手招きしているのがわかる。 集合の合図だろう。 間瀬はしぶしぶ立ち上がった。 「ま、穏やかな恋愛は70すぎぐらいまでとっとけ」 一言残して、先に走っていってしまった。 いつのまにか汗は引き、ぬるい春風はここちよく、体のあらゆる部分を撫でていた。 湯川もゆっくりと立ち上がり、大きく伸びをすると、緑色の芝を踏みながらコート中央まで駆け寄った。
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