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「あのさ、待って。想像の斜め上をいきすぎてて、脳の処理が追いつかないんですけど」
「じゃあ、追いつくまで待つ」
「いや、そうじゃなくて……」
湯川は段ボールに手をついて、身を支えた。
せめて連絡をするぐらいのことができないのだろうか。
用意周到に見せかけて、ずいぶんと無計画だ。
「……どうやったら湯川君に信じてもらえるか、ずっと考えてた。口で何を言っても、きっと無駄だろうし。離れてる限り、君は俺を疑うでしょ」
「だから、勝手に越してきちゃったわけ?」
——やはり、ぶっ飛んでいる。
湯川はしゃがんで彼と目線を合わせた。
瀬戸内は気弱な目で、こちらを伺っている。
「君を手に入れるのもこわいけど、離れるのはもっとこわいって、わかったから……」
言いながら、手を取ってきた。
探るようにやんわりと手の甲を揉まれて、湯川は強く握り返した。
指先を通じて、彼の温かさを感じる。
それだけで湯川はなんだか随分と落ち着いて、自分もまったく同じ感情を抱いているのだと気づいた。
「湯川君……」
「なんすか」
もう片方の手は、湯川から繋いだ。
大の男がしゃがんで向き合い、両手を繋ぎ合わせている——側から見たら、さぞ妙な光景だろう。
しかし、積まれている段ボールが壁になっているから、通路からは見えないはずだ。
瀬戸内は繋ぎ合った指先に視線を落とし、しばし泳がせたが、湯川が催促するように指先に力を込めると、やっと顔を上げた。
「君が好きだ」
震えたのは、彼の声か。
それとも自分の心か。
彼の告白による振動は湯川の指先にまで伝わり、その心地よさをゆっくりと味わった。
息を吸って、吐き出す。
気を鎮めてもなお、余韻であちこちが痺れているような、妙な感覚があった。
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