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いちばん可愛い
湯川は立ち上がり、瀬戸内の腕を引き上げると、玄関の鍵を開けた。
段ボールはとりあえずそのままに、彼だけを部屋の中に引き入れてから、鍵を回す。
施錠音を合図に、瀬戸内は湯川の二の腕を辿々しく掴んだ。
彼からの躊躇いがちな要求を感じ取ると、湯川はもう耐えられなくなって、かぶりつくように唇を奪った。
「あ……」
瀬戸内も口を開けて、湯川の侵入を受け入れる。
舌を絡めて一度離すと、今度は彼からも同じように与えられた。
電気もつけずに、ひたすらに唇を貪り合う。
鼻息と、合間に漏れる吐息が絡まりあう音だけが、日の落ちた暗い部屋の中で響いた。
「……ダメって言ったら、どうするつもりだったんすか」
唇を離し、額をぶつける。
影がかかって、彼の表情はわからなくなってしまった。
「わかんない……。でも、君は優しいから、きっと受け入れてくれるって思ってた」
そして、両手を背中に回し、きつく抱きついてくる。
その青いパーカーは湯川のものなのに、もうすっかり彼の匂いになっていた。
「優しいだけの男だけどな」
湯川は、決まり文句のような捨て台詞を吐いた。
「湯川君だから、全部さらけ出せたんだよ。恥ずかしいところとも弱いところもさ——君が受け入れてくれたから」
照れ隠しで吐いた皮肉もまるで通じなくて、湯川は黙り込んだ。
尖らせた唇の先端に、羞恥が引っかかっている。
「湯川君が優しいから、俺は自分のそういう部分を認められて——はじめてひとつの自分になった気がする」
「ひとつの自分?」
瀬戸内は微かに頷いて、湯川のボトムスのバックポケットに手を差し入れてきた。
「君といると、自分がひとつにまとまるっていうのかな。綺麗を繕わなくても、汚されなくても……そういう、半分を半分で埋めるとかじゃなくて——本来のままの自分でいられるから」
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