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湯川は人差し指で、彼の鼻筋や頬骨をなぞった。
出会ったころの完璧な印象は、いつのまにかなくなってしまった。
それどころか、ひどく不器用で大胆だ。
爽やかな笑みには隙間があり、所々から弱さや脆さがはみ出ている。
そんな不完全で人間臭い彼が、たまらなく愛しくて——いつの間にか放っておけなくなった。
「大切にされたい、優しくしてほしいって、誰かに対して思うのは——君が初めてなんだ。本当だよ。だから……」
話している途中で、ふたたび唇を塞いだ。
触れるだけの、ごく短いものだ。
体を離して瀬戸内の髪を撫でると、熱を帯びた彼の瞳が、とろりと揺らいだのがわかった。
「俺も、あなたが好きです」
やっと言った。
口に出せないまま、もう多分、ずっと——胸の奥にしまっていた感情だった。
とろけそうな瞳に、ふと力が入る。
「ほんと……?」
「このタイミングで嘘つくかよ」
額を指で小突くと、彼の体がふわりと柔くなった。
気を張っていたのだろう。
湯川は彼の腰に手を回して、支えてやった。
そして、そのままきつく抱き寄せる。
「大切にします。うんと優しくするから……もう、俺だけにしてください」
瀬戸内は肩にしがみつきながら、何度も頷いた。
そのまま、しばらく抱き合う。
部屋にはまた、日没後の静けさが戻っていた。
湯川はゆっくり体を離し、瀬戸内の頭を揉むと、ドアの鍵を回そうとした。
とりあえず、荷物を搬入しなくてはならない。
しかし、その手首をふたたび掴まれてしまった。
「湯川君……」
「荷物、とりあえず入れないと——」
彼は湯川の声など聞こえていないような素振りで、下半身を擦り付けてきた。
瀬戸内の全身は、もうかなり火照っていた。
「お願い。焦らさないで……」
耳打ちをされた時、取り戻しつつあった理性は、ふたたび壁に打ち付けられて粉々になった。
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