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「……呉上さんとは、ちゃんと話して終わらせたからね」
瀬戸内の声が布越しに響いてきて、湯川はTシャツを被る手を止めた。
「大切にしてもらいたい人ができたって言ったら、嬉しそうだった。『よかったね、安心した』って……。本当に喜んでたんだよ」
湯川は、まだTシャツを被ったまま、布地越しに相槌を打った。
落胆と嫉妬と——それでもなお、尊敬する気持ち。
呉上に対する感情は複雑で、未だに消化できない部分がある。
「田野倉君もね、7月いっぱいで辞めるよ。引き留めたけど、もう決めたんだって」
そこまで聞いてようやく、湯川はTシャツから首を出した。
瀬戸内はまだ裸のまま、うつ伏せになっている。
「宮平先輩は? どうすんの」
「智宏からは、君が守ってくれるでしょ」
膝下をあげてぶらぶらと揺らしながら、さも当然とばかりに言う。
湯川は鼻で笑ってから、洋服を彼めがけて放った。
「そろそろ起きて、荷解きしてください」
両手を叩いて促すと、瀬戸内はしぶしぶパーカーを掴んで羽織った。
彼が身支度をしている間、湯川は部屋の隅にある段ボールに目をやった。
入り口に積まれていた時は圧迫感があったが、部屋に搬入してまうと、大した量ではなかった。むしろ————
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