1196人が本棚に入れています
本棚に追加
こめかみを針で突くような痛みが走って、湯川聡介はため息をついた。
外の湿気と、冷房の効きすぎたオフィスのせいで、ただでさえ体調が優れないというのに、その上、頭痛まで加わってはたまらない。
首を不自然な方向に捻じ曲げながら、ピアノの鍵盤に触れるように丁寧に、パソコンのキーボードに手を添える。
わざとらしいぐらいに伸ばした背筋に違和感があるせいか、口角が震えてしまった。
「湯川君、表情かたいよー」
一眼レフの大きなレンズを通していても、彼の視線が透けて見えるようで、筋肉の緊張とは種の異なる震えが、背筋を襲うのだった。
その、やけに響きのいい声が周囲の関心を誘うのか、隣の席の武山が堪えきれずに吹き出したのが、視界に入った。
「ちゃっちゃと撮ってもらえますかね。ちゃっちゃと」
「もっとさー、こう、爽やかに……ニカッて笑えないの?」
「胡散臭い笑顔なんかつくれませんよ。あなたじゃあるまいし」
皮肉を返してやると、カメラのボディからわずかに見える口角が、楽しげに歪むのがわかった。
彼は何度か、シャッターを切った。
一度切っては焦らすように間を置いて、もう一度。
さらに液晶を覗いて首を一捻りしてから、もう一度。
その間、湯川は張り付いた笑みと不自然な体勢のまま、周囲からの好奇に晒され続けた。
最初のコメントを投稿しよう!