エスケープ

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✳︎ ベッドに寝そべったまま、瀬戸内が身支度をする姿を眺めるのが、朝の日課だ。 姿見に向かってネクタイを締める、引き締まった横顔が、こちらを向いてほぐれる時——なんともいえない幸福感に包まれるのだった。 自分がスーツフェチだと気づいたのは、ごく最近のことだ。 大智と付き合っている時にもその兆候は見られたが、瀬戸内と付き合うようになってからは、よりはっきりと自覚するようになった。 スーツに身を包んだ、凛とした姿を見つめているうちに、あたたかな幸福感は徐々に熱を孕んで、欲望へと変化を遂げていく。 綺麗に繕った彼を見ていると、すべて引き剥がして生身のままにしてやりたいという欲求が募り、身体の芯が疼くのだった。 辛抱たまらなくなると、湯川は、彼の背後に立って、綺麗に整えられたものを一枚一枚、脱がしていってしまう。 そんな時、彼は大人しく一糸纏わぬ姿になって、湯川の欲求をまるごと受け入れるのだった。 その営みは、彼がスーツを着用した朝、かならずと言っていいほどに繰り返された。 次第に瀬戸内も学習するようになり、スーツを着ていく日はいつもより30分程度、早く支度をするようになった。 そして、彼自身も、湯川が背後に来ることを、ネクタイを締めながら待ちわびているように見えた。
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