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世界最後の日に花束を
「地球滅亡まで残り一週間となりました」
テレビのニュースキャスターは淡々と原稿を読み上げる。先人たちは地球滅亡するまでに宇宙計画を立ち上げ、人類を宇宙へと旅立たせる方舟計画を遂行していた。が、現状では宇宙に飛び立てるのはほんの僅かな大富豪だけ。計画は立派であったが、地球外に宇宙服なしで暮らせる惑星を結局見つけられず、宇宙ステーションへの移住となるが、結局人員制限があり、地球に残るほとんどの人々は一週間と迫った地球の惑星爆発により運命を共にする。
その報道がなされた当初はパニックとなったが、世界規模で成す術がないと分かると人々の生活は穏やかなものとなった。人類全てを巻き込んだ終活なのだ。
滅ぶまでに何をすべきか。テレビのバラエティとはそんな特集を組むが、テレビのバラエティに残るのは名を残せなかったタレントばかり。そのほとんども地球と運命を共にする。早々と地球外に飛び立った著名人よりずっと好感が持てる。
世界が運命に翻弄される中、僕は教師としての仕事を今日辞めた。あと一週間、何をして過ごすか。それは最優先事項だ。例え皆が一斉にこの世を去るとしても後悔だけはしたくない。そのように考える者は多いのか、地球滅亡のカウントダウンが始まってからの離職率は鰻登りだ。
「先生、また遊びに来てね」
教え子たちはそのように僕を見送ってくれた。
「そうだね」
そう返した僕は実は嘘つきなのかも知れない。曖昧な返事で約束しないようにする。ズルい話だ。教師として生徒たちを巣立たせることに生き甲斐を感じで生きてきたが、教え子たちが巣立つことはもうない。
もし天国というものがあるならば、僕はそこでも教鞭をとりたい。教え足りない教え子たちにまた授業をしたい。そんなことを考えながら校舎をあとにする。
街は相変わらず活気がある。最後の晩餐に最後の贅沢。それを求める人がいる限り商売は成立する。預金など残していても意味がない。ならば残り一週間はできるだけ豪華になんて人々は息巻いている。
まるで年末のような活気だが、季節はもうすぐ春だ。僕は通い慣れた喫茶店の扉を開き、僕を待っていた君の笑顔を見つける。
「ちゃんとお別れできた?」
「うん。寂しいけど、お別れしてきたよ」
「最後はちゃんとしなきゃね。さて、私たちはどうする?」
「どうもしない。僕たちは世界最後の日まで恋人のままだ。それでいいだろう?」
「なら世界最後の日まで教師で良かったんじゃないの?」
怒っているのだろうかと勘繰ったが気のせいだろう。地球に残る人々は皆、カウントダウンの中。怒るという行為は期待と隣合わせだ。先がないなら怒る理由などない。
「ただのけじめだよ。あと一週間。僕らはあと一週間、恋人の時間を楽しむんだ。それが僕の最後の贅沢だ」
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