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「ふふ。あと一週間で出した勇気か。君にしてはえらいよ」
子供扱いされた気もしたが、君と僕の関係は常にそうだった。教師であるというのに君は僕を子供扱いして、何かと世話を焼く。一人でできるよ!と反論するともっとうまくできるように教えてあげるからなんて君はそう言うんだ。たまにうざったいこともあったが、そんなのは君との関係を終了させる理由になんてならなかった。
「僕だって一人の大人なんだから」
「そうね。じゃあ今日は何をする?」
「鍋をやろう。缶ビール飲みながら語り明かそう」
「安上がりじゃない?」
「まだ一週間あるんだ。楽しみは小出しに。僕にとっては鍋も贅沢だけどね」
「じゃあコーヒー飲んだら買い出し行きましょ」
その後は喫茶店で喋り倒して、スーパーに鍋の買い出しに行き、僕のアパートで二人で鍋を囲む。僕の話題は教え子の話ばかり。それを君は横やりを入れもせずに缶ビール片手に微笑みながら聞いている。
「みんな、可愛いんだね」
「当たり前だ。大事な教え子たちだ。可愛いに決まってる」
君は満足したように缶ビールを煽る。
「いい先生だね……」
君はそう言ってから寝息をたて始めた。僕は君を抱き上げベッドまで運んでから、後片付けをする。後片付けをすぐにしないと君の機嫌が悪くなることが多かったから。
片付けが終わってから僕も君の眠るベッドに入り、目を瞑る。一日目にして良い一日だ。明日は何をしようか。
二日目の朝。僕は味噌汁の匂いを感じながら目を覚ます。寝室からキッチンに向かうと君が忙しく動いていた。
「あ。起きた?今日は映画に行こうよ」
「観たいのあるの?」
「行ってから決める。ただ君と映画を観るのはやっておきたいなって」
君の中にもやりたいものリストがあるらしく、それを無下にすることはできない。
「やっぱり恋愛ものかな?」
「ホラーでもいいのよ?君が怖くなければ」
君は僕を弱虫扱いするように笑う。
「苦手だけど観られないほどじゃないよ」
「あら残念。まずは朝食ね」
君と朝食をとり、一緒に後片付けをしてから僕たちは歩いて映画館へと向かう。映画館もそこそこに人はいる。最後の贅沢に映画を選ぶ人も多いようだ。僕らはヒューマンドラマを選択し、映画が終わる頃には二人してボロボロと泣いていた。
もうすぐ僕らの人生が終わることが僕らの涙腺を刺激して、帰りは君としっかりと手を繋いだ。
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