世界最後の日に花束を

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 三日目は君が一人暮らししていたアパートの清掃。君は残りの人生を僕と時間を共にすることを決めた。引き払う必要などないので掃除をして、必要なものを僕のアパートに運ぶ。レンタカーを借りて行ったが、運ばない荷物は君のアパートに置いてきぼり。もし君が僕と喧嘩して帰りたくなればここに来ればいい。そのため捨てる必要などない。君と喧嘩しないように僕は最大限の努力はするつもりだ。  四日目は君の提案により僕が勤めた小学校に顔を出した。 「先生!!」  僕に気づいた教え子たちはすぐに僕を囲んでくれる。 「ねぇねぇ。隣の人、彼女?」 「そうだよ」 「すげー!」  何かすごいのかは分からないが、君は僕の彼女として受け入れられた。しばらく教え子たちと話して、僕に彼女がいるのが何がすごいのかを知る。 「先生、なんか頼りないから彼女なんていないと思ってたー!」  それを聞いた君は吹き出したが、君は好かれているんだねと満更でもなさそうだった。  本当は教え子たちにはもう合わないつもりだったが、君の提案に乗って良かった。教え子たちの笑顔を見ると涙がこぼれてしまった。 「先生泣くなよー」  教え子に励まされて泣いてないよと強がってみせた。教え子たちの人生もあと三日しかない。  世界最後の日は近づいているがテレビもラジオも新聞も止まることはない。世界は当たり前に動いている。  五日目と六日目は一泊旅行をすることにした。近場の旅館にレンタカーを借りて赴く。一番高い部屋を頼もうかと思ったが、そこはすでに予約されているらしく、僕らは一般の部屋に通された。旅館も終末プランを練っており、採算度外視のサービスをしてくれる。お茶請けの中身が高級菓子だったりお茶も高級だったり、食に関しては豪華であった。温泉もまた全ての浴場を開放し、終日好きな時間に入れた。浴衣も終末プランのためにわざわざ高い生地を使い新しいものを用意していた。  これが人生最後の旅行であるのは寂しくもあるが、君がやたらと笑うから僕もよく笑った。  怖くない訳がないのに、僕らは沢山笑おうとした。どうせ終わるならば楽しい思い出を沢山作りたい。どんな小さなことでも笑えるように過ごしたい。  旅館をあとにした六日目の夜に僕らはアパートに戻ったが、その日は早々と泥のように眠った。
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