世界最後の日に花束を

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 七日目。今日が世界最後の日。地球が惑星爆発するのは十九時頃だろうとニュースキャスターは言っている。流石に君の顔から笑顔が消えた。 「今日は散歩しよう」 「……うん」  僕らが今まで過ごした街を目に焼き付けるように僕らはゆっくりと街を歩く。僕はあることを決めていた。今日この日にやるべきことを決めていた。  他愛ないおしゃべりをしながら僕らは歩く。大切なのは明日を望むことじゃない。今日をどう生きるかだ。  僕は花屋の前で足を止める。 「ちょっと待ってて」 「花を買うの?」 「そうだよ」  僕は花屋の中に入り花束をお願いする。花屋の主人は無表情で頷き、黙々と花束を作り上げる。それを受け取り代金を払って僕は君のもとに戻り、君に花束を差し出した。 「僕と結婚してください!」  君の顔は歪み、涙がこぼれた。 「私たちは……、今日の夜にはこの世にいないんだよ?」 「それでも!たった半日でも君と夫婦でいたい!後悔なんかしたくない!」 「バカ……」  君は花束を受け取り僕に抱きついた。 「ふつつか者ですがよろしくお願いします」 「幸せにするから」 「もう充分だよ」  世界最後の日。僕らは夫婦になった。何も残らないが、それだけで僕に後悔はない。  君と過ごせて良かった。  世界が終わるまで、あと数時間。それは僕らにとって最高に幸福な時間だ。 了
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