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騎士は、その姫の美しさに心を奪われた。
年に一度の閲兵式の日、騎士は姫の姿を見た。
騎士は慌ててその感情を追い払おうとした。
自分の地位は身分が釣り合わぬ下級の騎士、そして騎士自身も自覚しているように、騎士は醜かった……。
獰猛な獣の様な吊り上がった目に、戦場で受けたために切り株の様になった鼻、悪魔の様な耳に唇は青白く……顔はおろか全身に数多の戦でついた傷……更に顔色は焼けた銅のようであった。
騎士はその想いをひそかに心の中にそっと仕舞うと、その思いに心の中で鍵をかけた。
騎士は剣技の腕は騎士団でも三本の指に入る達意人だった、騎士は心根も優しく領地の民、そして同僚は皆騎士を慕った。
そして騎士は文人であり、数多の人の心を打つ詩を書いた。そして、音楽にも造詣が深くヴァイオリンは国王も偶に騎士を召し出して演奏させるほどの腕前だった。
しかし、騎士は醜かった……。
その為騎士はそのたぐいまれな才能を認められることはなく、下級の騎士に甘んじていた。
騎士が想いをはせた姫は美貌の持ち主だったが、姫は光を母である王妃の体内に忘れて生まれた……王宮内に伝わるゴシップでは、王妃は魔女との約束を破りその為に生まれた娘は光を失って生まれたのだと……。
騎士は姫の生い立ちと現状を深く悲しむとともに、姫が光を失っているためこの醜い姿を知られずにいて良かったと感じているのであった。
隣国との戦争が終わった時、王は武勲ある数十名の騎士のみを謁見の間に集めて言った。
「この中に誰か、北の山に行って姫に光をもたらす宝石を魔女から奪う剛のものはいるか?」
集まった騎士たちは誰も返事をしなかった。
北の山に住む魔女は恐ろしい妖術使いだということを皆知っていたからである。
王は更に言った。
「もし、その任に応え、見事に宝石を持ち帰り、姫に光をもたらしたものには姫を嫁がせよう……。」
騎士たちの間でざわめきがおこったが、それでも高名な魔女の名に誰も名乗りを上げる者はいなかった。
「私が参ります。」
醜い騎士は、大きな……野獣が吠えるかののような声で言った。
王は騎士の顔を見て、莞爾として笑って言った。
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