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「田中くんはこれからデートとか?」
「ううん、僕も暇だしクリスマスセールでも漁ろうかと」
「いいなあ。私これ全部売らなきゃ帰れないんだ」
「え、これ全部?」
ショーケースの中のケーキを指差しながら田中君は驚く。
いや流石にこれ全部は冗談だけど。……冗談ですよね、店長?
「じゃあさ」
彼は唐突に言った。
「もしもここにあるケーキ僕が全部買ったら、一緒に遊びに行ってくれる?」
「え」
この人は何を言っているんだろう。「そんなことできるわけないのに」と思った直後に「でもそれってどういう意味?」「全部でいくらになるんだろ?」「田中くん甘党だっけ?」と次々と思考が追ってきて、混乱した私は言葉を失った。
「えっと、それは」
「もちろん大丈夫です! お買い上げありがとうございまーす!」
「店長!」
私の代わりに勢いよく返事をした店長は満面の笑みを浮かべた。
「ほらほらケーキ全部売れたから、真里ちゃん今日は上がって!」
勢いそのままに店長はぐいぐいと私をバックヤードへと押しやる。
「……ほんとに良いんですか」
「いいのいいの。若者がクリスマスにこっち側にいちゃダメでしょ。――まあでも、その代わり」
そして店長はニヤリと笑った。
「来年のクリスマスケーキはうちで予約してよ?」
彼女のその優しさに、私は唇を噛んで覚悟を決める。
「一番おっきなケーキ予約します!!」
「予約承りました~。ほら、いっといで!」
笑顔で肩をポンと叩かれ、私はもう一度お礼を言って更衣室に駆け込んだ。
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