第一章「匣の中の死体」

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 時刻は夕暮れ時になり、見上げた空は緋色に染まっている。腕時計の時間を確認しながら、溜息を吐く。舗装された道を逸れるために車を下りてからは、ずっと道なき道を歩きっぱなしだった私の足は棒のようになっていた。目指している地点は明確でなく、今の方向が合っているのかさえ定かではない。  それでも私はあそこを死に場所と決めたのだ。  すこし休もうかなと近くにあった木に寄りかかった私の耳に、かさりかさりと別の誰かが葉を踏む音が届く。音は私の目の前から聞こえ、やがて私の眼前にピントのぼやけた写真を思わせる不明瞭な姿の少年が浮かび上がった。ゆっくりとその姿は明瞭になっていく。  幼き日の自分がそこにいる。  私は足の疲労も忘れ、少年を追い掛けるように早足で歩いた。  やがて少年は立ち止まり、その場から姿を消した。  そして私は求めていた死に場所を見つける。木の板を十字架代わりにして地面に差した墓標は今も変わらず残っていた。  その下には、  私の埋めた死体が入ったままになっているはずだ。  幼い頃、泣きながら地面を掘ったあの日のことは、今も脳裡に焼き付いて、頭から離れない。  わざわざ掘り返す必要はない。彼は今もまだこの暗い土中にあるのだから。  今もあの日の記憶は鮮明に思い描ける。もうすこしだけ、時間が欲しい。その場に座り込むと、彼との想い出が蘇ってくる。
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