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回想の始まりというものはどこから始めればいいのだろう。
そう考えた時、もっとも始まりにふさわしいのは、初めて祖父に出会った日のような気がした。
十二歳になるまで、私は父方の祖父の顔を知らなかった。しかし祖父のことはよく知っていた。祖父は地元ではかなりの有名人で、物心ついた頃から何度も周囲や親戚のひとに祖父の人となりについて聞かされていたからだ。
その風評は決して良いものではなくて、
大抵は、
『詐欺師――』『ペテン師――』『嘘吐き――』などと怒りや不満に満ちたものばかりだった。
そんな人物ということもあって、両親は決して私に祖父と会わせようとはしなかった。両親ははっきりとそれを言葉にしたわけではなかったが、幼いながらにそれを感じ取ることができた。
そもそも私自身、会いたいとは思わなかった。
反対に母方の祖父母と両親は親密な関係が続いていて、頻繁に顔を合わせることが多かったので、私の中で祖父母と言えば、まず母方の祖父母が頭に浮かんだ。
そんな祖父は私が十二歳の時、自殺未遂騒ぎを起こし、父はそれをきっかけに祖父のもとへと通うようになった。父は、嫌われ者の祖父とは絶縁状態だったけれど、それでもひとり暮らしの祖父のことが放っておけなかったのだろう。
定期的に隣町の祖父宅へと通うようになった父から、何故かある時、「お前も来るか?」と言われ、断ることもできないまま、私は父に同行させられることになった。嫌々付き従う私に、父は祖父の自殺未遂の件や絶縁状態だったことを語って聞かせてくれた。周囲から祖父について聞くことはあったけれど、実際に父の口から聞くのはその時が初めてだった。
今思えば十二歳の少年に聞かせる内容ではなかったように思うけれど、腹を割って話してくれているような気がして、当時はとても嬉しかったのを覚えている。
「会うの、怖いか?」
父の言葉に私は素直に頷いた。
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