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第二章「死体を捨てよ、町へ出よう」
過疎化が急速に進む地域に住んでいたこともあって、私の通っていた小学校はクラスが一クラスしかなく、六年間、毎日のように同じ顔触れとひとつの教室で過ごす環境は、ひどくつまらないものだった。変わらぬ日常を壊してくれる出来事を誰もが望んでいるように見えたが、その中でも特にその想いを強く感じる生徒がふたりいた。そのひとりが大野くんだった。
大野くんは短気で、ガキ大将気質な男の子だった。
大人しくしていられない子で、ときおり急に暴れ出したりして、クラスメートや先生を困らせた。私も一度彼に顔を殴られたことがあってからは、必要以上に関わらないように距離を取っていた。
あれは祖父の死体を見てから三日後、久し振りに学校に登校した日だった。
「なぁお前の祖父ちゃん、殺されたんだって?」
小学生とは言ってもこの年齢になれば、相手に配慮を覚える子も多くなってくる頃だが、それでもストレートに残酷な言葉を投げ付けてくる度合いは大人のそれと比べ物にならない。特に大野くんはそういう配慮が苦手だった。いわゆる空気の読めない少年だったのだ。これは本人に聞かなければ分からないことではあるけれど、実際のところはあえて読もうとしなかったのだろう。
彼は、場を乱すことに快感を覚える少年だったような気がする。
「あぁ、うん……」
「あのクソみたいな祖父ちゃん。とうとうくたばったんだ」私の祖父のことなど大して知らないくせに、大野くんはそう言って笑った。「なぁ死体見たって聞いたんだけど、どうだった?」
「どうって、どういうこと?」
「だからぁ、あるだろ。怖かったー、とか、気持ち悪かったー、とか?」
「別に、ただの死体だった」
私は執拗に絡んでくる大野くんに嫌気が差して、適当に答えた。
「なんだよ、それ。もっとなんかあるだろ」
「別に、そんなのないよ」適当にあしらわれているのに気付いたのだろう。私の冷たい反応に大野くんが苛立ってきているのが分かった。
いつもの私ならその場を収めるために、どちらかが良いとか悪いとか関係なく私のほうから謝って、無理やり話を終わらせていたと思う。だけど茶化すような口調の大野くんに腹が立ったのもあるし、何よりもあの時の私にとって祖父の死は触れて欲しくないものだった。
他のクラスメートたちと同様、腫れ物を扱うように接して欲しかったのだ。
「っんだよ、その態度!」
と、大野くんが私の胸倉を掴むと、周囲のクラスメートたちが各々の会話を止め、私たちふたりに注目するのが分かった。
仲裁に入ろうとする者はいなかった。
誰もが息を呑んだように様子を見守っていたのか、教室は静けさに包まれた。当然の反応だ。私が彼らの立場だったら、同じ行動を取っていただろう。
下手に出てしまいたい気持ちと絶対に謝るもんか、という気持ちが合わさり、ようやく振り絞って出てきた言葉は、
「うるさいな」
という一言だった。
そして言った後、彼の怒りに色を変えたその表情を見ながら、殴られることを覚悟した。
その時、
「大野。うるさい」
と私の背後から冷めた声が聞こえた。もう声変わりを終えたその低い声はちいさいが、明瞭に私の耳に届いた。
顔を見なくても声で誰か分かる。
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