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彼は財布からカードを取り出し私の前に置いたけれど、すぐにそのままカードを返した。
「今日のお代は結構です」
「……え? 」
「さっきお出ししたコーヒーは
ご注文を受けてから淹れたものじゃないので……。
お金は頂けません」
あのコーヒーは
いわゆる"賄い"的なものだし
そこは私のこだわり。
すると彼は、また少し微笑んで私を見た後
カードを財布に戻して
また何かを財布から出し
「営業時間外に休憩させて貰った上に
美味いコーヒーも飲ませて貰ったお礼」
私のブラウスの胸のポケットに
さっきの綺麗な指で、その何かを入れた。
一瞬見えた感じで折り畳まれたお札だと分かったから、ポケットから取り出そうとすると
「待った。
それはコーヒー代じゃなくてチップだから
返すのは失礼……だろ? 」
チップだと、そう言われてしまったら
この人の言う通り、返すのは失礼になる。
胸ポケットへと持って行った手を下ろすと
ニヤリと笑いながら
私を見る目は勝ち誇ったようで
なんでこの人はこんな意地悪な感じなんだろうと、やけに悔しくて唇を噛んだ。
「素直に貰っておけばいいじゃない」
隣に並んだ彼女からも
そんな言葉を投げられた。
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