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胸ポケットから取り出したものは、折り畳まれた一万円札だった。
それもずっと長い間、このままの形でしまわれてたんだと想像出来る程にぺったんこで
まるで分厚い辞書の中に、何年も忘れられた押し花みたい。
そんな事を思いながら
ぺったんこな一万円札を開いたら
1枚じゃなくて2枚重なってた。
知ってて渡したのか
それとも
特に気にもせずに渡したのか。
………でも、どっちにしても
あの人にとっては
1枚も2枚も変わらない金額なんだろうな。
私も一時は沢山のお金を手にした時があったけれど、それは本当に一時的な事で
この1枚と2枚の差が大きい感覚は、ちゃんとある。
『続きはまた今度』
『今度は営業中に来るよ』
彼が言った言葉通り
また次会う事があったなら
このお金はやっぱり返そう。
そう思った時
さっきヨウさんが見せてくれた雑誌が、開いたまますぐそこにあるのが目に入って
手を伸ばし、その雑誌を自分の前へと引き寄せた。
大きく特集されたそのページを初めから読んでみたら、抱えてるものの大きさは違えど、経営者という立場は同じで
彼が記者に語った一言一言に頷けた。
そんな記事の締めくくりの言葉は
『欲しいと思った物って
今まで全部手に入ってるんですよね』
こんなふうに言える人
そうそういない。
さっき目の前で見た
自信に満ちた顔で微笑む彼の顔が浮かんだ。
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