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車へと辿り着くと
スッと助手席のドアを開けて
「どうぞ。
……って言うか、乗り慣れてるでしょ。この車」
その口から、藤井さんとの事を思い出させるような事を言われると、どうしてだろう……。
いつもなら、嫌なものは嫌だと言える自分が顔を隠す。
──後ろめたさ……?
「………私、一緒に行くって言ってませんよね」
そう言うのが精一杯。
すると彼は車のドアとルーフの間に手をついて
「この前オレ言ったよね?
今度はオレがあんたを買うって」
またそのセリフを言った時と同じ顔で微笑む。
「それはお断りしたはずです」
ちょっと睨む感じで言ったら
まるで1週間前に戻ったかのような
あの時見せた、見下した感じの笑い方をする。
「この前は言わなかったけどさ。
あんたはオレのモノなんだよ? 」
横を通り過ぎて行く、車の音にかき消されもせずに聞こえた言葉に耳を疑う。
「オレね、親父の持ってた物、全部引き継いだワケ。
会社もこの車も
地位も名誉も、遺産全部。
自分が所有してた物全てオレに相続するって、親父の遺言状通りにね」
「遺言状……」
いつだったか
そんな話を聞いた事があったのを思い出す。
まだそんなの必要ないでしょ? と言った私に、藤井さんは、いつ何があるか分からないよって笑ってた。
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