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そんな私の肩に回ったヨウさんの手が
優しくポンポンと動き
「よしよし。
泣け泣け、泣きたい時はどんどん泣け」
「………嬉し泣きだもん」
「んなの、分かってるわ。嬉しい時もどんどん泣け」
励ましてるんだか
笑わせようとしてるのか。
いつだってこの人はこんなふうに私の背を押してくれる、今じゃ兄のような存在。
そんなヨウさんと出逢ったのは7年前。
自分のカフェを持つ夢を叶えるには、必要なものは何よりもお金で
ただ高い時給だけを目当てに
ネットで見つけた、銀座の高級クラブの面接を受けた。
本当はクローク希望だった私に
お金が欲しいならフロアレディにと、面接をしたママに言われ
迷ったのはほんの数秒。
すぐにフロアレディで、と返事をしてた。
フロアレディ=ホステス
まさか自分がホステスになるなんて考えてもいなかったけれど
1ヶ月もしないうちに、愛想笑いを覚え
会員制の高級クラブに来る客との話に困らないように経済新聞を読み
3ヶ月経った頃には
よりお金を持ってる客が分かるようになって行った。
そしてその客に媚を売る私が存在して。
昼間は新宿のカフェスクールに通い
夜は銀座で働いた。
『あんまりムリすんなよー』
ある日、そう声をかけてくれたのが
同じ店で黒服として働いていたヨウさんだった。
気さくで面白くて
何故か時々オネエキャラにもなるヨウさんとは
その一言がきっかけで
あっという間に仲良くなった。
用田と書いてモチダと読む苗字のヨウさんは
会う人会う人に"ヨウダ"と呼ばれるから
もうヨウダで良いや、なんて
そんな投げやりなキッカケで
みんなにヨウさんと呼ばれるようになったらしい。
年上なのに全然気を遣わずにいられるし
何より、私の話をふんふんと丸い目をして頷いて真剣に聞いてくれた。
だからヨウさんだけには
私の叶えたい大きな夢も話した。
自分の店なんて、と誰もが笑うような事なのに
「なにその夢! オレも仲間に入れてよ」
そう言って
ヨウさんは私の夢の仲間になった。
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